「10分でわかる核兵器禁止条約:9つの質問」 鈴木達治郎氏 2021 2/8

コラム紹介

2021年2月8日 「10分でわかる核兵器禁止条約:9つの質問」

鈴木達治郎氏 長崎大学核兵器廃絶研究センター 副センター長

 

それでは、
今日は、「核兵器禁止条約を10分で説明する」ということですね。
まず最初に、

 
第1の質問は
1⃣「〈TPNW(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)〉(*1)って何だ?」
この〈核兵器禁止条約〉の条項の中で、とにかく、
「核兵器を《国際法》で禁止したのはこれが初めて」
で、ここに書いてありますように、
・「核兵器のあらゆる活動」ですね、しかも「核爆発装置」っていうふうに書いてありますので、「兵器になってない核爆発装置」も禁止、ということですね、
しかも、開発、実験、生産、製造、取得、占有・・この辺はいいんですがね、配備、威嚇、それから奨励、勧誘、これらが全部禁止になりましたので、
NATOとか日本とか、”核兵器を持ってない国も、多分この解釈によると駄目だということになりました”、と。
他の大量破壊兵器である「化学兵器」とか「生物兵器」は既に禁止されていますので、これまで、なんで禁止にされてなかったのかって思うぐらいに禁止されてなかったんですが、
もう一つ核軍縮で重要な条約として、
・〈核不拡散条約〉というのがあるんですが、これは、当時ですね、67年なんですけど、  「核兵器を持っていた五大国は持っていい」、ということ、そして、
「核兵器の保有、使用、威嚇などは禁止していない」
「この五大国については持っていいです」、という不平等条約だったので、
今回初めてですね、「核兵器持ってる全ての国が対象になった」ということで、めでたくこの1月20日に発効なりました。
こういう条約です。

 
2⃣「 なぜ作られたのか」、っていうことなんですけど、
1995年にですね、〈NPT核不拡散条約〉が無期限延長になったんですね。
それまで、25年という期限で〈NPT〉は作られたんですが、それを無期限延長しちゃったので、
そのときのお約束でですね、”核兵器(保有)国は、核兵器廃絶に向けた軍縮ちゃんとやんなきゃいけない”、ということだったんですけども、
・残念ながら、冷戦が終わってもですね、核軍縮がなかなか進まない。
さらにむしろ、「核軍縮停滞」どころか
・「核兵器近代計画」とかですね、「新たな軍拡競争」とか、「五大国以外の国々も核兵器を持つ国が増えてしまった」、ということで、”核戦争のリスクが高まった”、と。
終末時計ってご存知かもしれませんが、これが、”100秒前”、っていうですね、
”第2世界大戦以降、非常に、最も危険な状態にある”、ということで、核戦争のリスクの高まりを受けて、非核保有国が立ち上がった、ということです。
次のもう一つの重要な、この条約のポイントは、
”〈安全保障条約〉ではない”
これまでの〈NPT核不拡散条約〉とか、あるいは〈包括的核実験禁止条約〉とかですね、他にもいろいろあるんですが、
それらは全て『国家安全保障』で、
”「核兵器(保有)国」が『安全保障』のために作ってきたものがほとんど”なんですね、まず全部と言ってもいい。
これ〈TPNW(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)核兵器禁止条約〉はですね、
・”「核兵器国」ではなくて「非核保有国」や「市民社会」が、人道上、〈人権条約〉ですね、〈国際人道法〉の観点から作った”、
ということでユニークです。
・元々は、その96年の〈国際司法裁判所の勧告的意見〉というのがありまして、
「核兵器使用は基本的に威嚇使用は一般的に国際法違反である」ということを提言したのが元になってます。
この後ですねそれから20年近くかかったわけですが、
多くの国がこの、「核兵器の非人道性」っていうことを元に、
この〈人権条約〉としてこれを作ったと。
・前文にですね、その条約の前文に「ヒバクシャが受けた容認しがたい苦しみに留意」っていう文章が入ってたりしてですね、
・被爆者の方々の声が強く反映された条約になっている、と。
ノーベル平和賞を受け取った、受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」という市民団体が被爆者と一緒になって作った条約、ということで注目された、ということですね。
 

 
3番目に
3⃣「この条約ができたらすぐ、核兵器がなくなりますか?」、
っていう問いがあるんですけど、もちろん、残念ながらなくならない。
というのは、現時点ではですね、
・「核兵器国」、または、日本のように「核の傘に依存してる国」は
”参加しない”と言ってるので、
実際に核兵器を頼りにしている国々は参加しないと言ってるので、
これができたからといってすぐになくなる、というわけではない。
・実際に条約に参加しなければ拘束力はありません。
・現在、批准している52カ国、ほとんどが発展途上国で、核抑止に依存していない国がほとんどなので、
残念ながら、この条約ができたからといってすぐになくなるわけではない。
 

ではですね、
4⃣「(核保有国が)参加しないのに意味があるのか?」っていうことなんですが、
・我々は、”意味がある”、と。
条約としてできたということで、”〈国際法〉違反である”、ということなので、
「核兵器は悪いもの」だとか「核兵器は絶対悪だ」という【悪の烙印】を押すことができる、ということですね。
これによって新たな〈国際規範〉ができる、ということで、
・実際にこれ、できてしまいますとですね、
〈条約〉に参加しなくても、それなりの圧力になる。
・実際にこの、そういう例として、やはり〈人権条約〉と「人道的な視点」からできた
〈対人地雷禁止条約〉とかですね、〈クラスター爆弾禁止条約〉は、持ってる国が全部参加してるわけじゃないんですが、
実際にはですね、もう「製造禁止」したり、クラスター爆弾が「使われることがなくなった」っていう、実際そういう事例がありますので、
やはり現実に使用することは困難になる、という一つの大きな柱としてですね、注目される、と。
それから市民社会だけではなくてですね、
・「金融業界」ですね。金融市場で、”核兵器関連企業への投資抑制をしましょう”、というキャンペーンが始まっていまして、
・実際に、このリストが市民社会によって「ICAN」のこのグループによってですね、発表されてしまいますので、(*2)
・日本ではですね、”悪の、不名誉の殿堂”、としてこういう名前が公表されちゃったんですね。それによって一部の銀行、「九州ファイナンシャルグループ」が初めてなんですけど、それから、「三菱UFJ」も、昨年、核兵器関連への融資を抑制する、っていう、こういう方針を発表していますので、これは広がっていきますと、核兵器関連企業をもだんだん苦しくなっていく、っていう、
このような〈新しい国際規範〉によって、いろいろ広がっていく、ということですね。
それから、
・「地方自治体や州が議決をする」ということも広がっている、と。(*3)
日本では531の自治体が議決をしていますし、アメリカやフランスやですね、核兵器国の中でもですね、こういう議決をしているところは出てきてる、という、
これも、新たな圧力になるということですね。
 

 
5⃣「世界の世論はこの条約を支持している」
世論を見てみますと、
”「核兵器国」でも多くの国が、過半数がこの条約を支持している”、
ということが既に言われています。
 

ちょっと、日本のですね世論調査が最近新しく出たんです。これ論文なんですけども、
”日本で75%ぐらいが批准に賛成してる”、ってのはよくご存知だと思うんですが、
実は質問にですね、
「実はですね、これは国家安全保障上、あんまり役に立たない」、
だとかですね、
「核兵器禁止条約が制度的にいろいろ問題がある」、とか、
後でお話しますけど、それから、
「国際規範といっても限界がある」、とかですね、
「社会運動市民社会運動にも限界がある」っていう、
質問にそういう、「条件をつけて聞いてみた場合」どうなるか、変化するか、
って聞いてみたところ、
”ほとんど変化がない”、ということで、「この論文は日本の世論が非常に根強いものがある」、ということです。
海外でいけばですね、”いろんな条件を付けると賛成の数字が減る”んですけども、
”日本ではほとんど変わらない”、ということで、日本の世論が非常に強い、という論文が、ついこないだ、去年の我々の論文雑誌に投稿された、ということですね。
 

 
6⃣「では、どういう意見が、『反対意見』があるか」というと、
主に「核保有国」と「核兵器に依存している核の傘の国」が反対してるわけですが、
・「核兵器(保有)国が参加してないので実効性がない」とかですね。
それから、
・実際核兵器国と非核兵器国の対立を生んで、かえってマイナスである」とか、
・「核不拡散条約〈NPT〉にも影響は出る」とかですね。
それから
・「核の脅威にさらされている国にとってはリスクが高まる」というような理由を挙げて反対していますが、
こういう、ここでちょっと、答えが書いてありますけども、
”それぞれについてですね、反論はちゃんとできる”、というふうに私達は考えています。
 

 
7⃣「日本はなぜ署名批准しないのか」、っていうことなんですけど、
ここに書いてあるのは、日本政府の公式な見解です。
・目標は共有するけどアプローチは違う。
・北東アジアの安全保障環境が厳しい。
それから
・TPNW(核兵器禁止条約)は核抑止を禁止しているので、日本を核抑止に依存しているから駄目。
それから
・核軍縮を進めていくためには、核保有国が参加しないと意味がないので、現実的には、段階的に進めていくしかない。
それから、
・日米同盟にも悪影響がある、と
こういう理由で反対。参加してないんですね。
これらがですね、実は、現実的に確かにそうだなと思う面もあるかもしれないので、我々としてはですね、
 

 
8⃣「日本でもできることはあるの?」
”いやいや、それでもですね、現実に今でも参加できる、いろいろできることはあるんじゃないですか”、って言ってですね、
◎「まず条約への支持支援をきちっと打ち出す」、と。
もう、反対ばっかりしてんじゃなくてですね、この趣旨に賛成するのであれば、
例えばですね、
・締約国会議が、発効から1年以内に開催されますが、それにオブザーバーとして参加して意見を表明するとか、
・条約にはですね重要な項目として「検証措置」とか「被害者支援」っていうのが入ってるんすけど、被爆国である、唯一の被爆である日本がですね、この両方についてですね、貢献できる、と。
それから
・締約国会議を日本にし、招致する、とかですね、
いろいろ日本ではできることあるんじゃないかとか実際に核軍縮緊張緩和のために安全保障の環境を良くするためにできることがいっぱいあるということでここにいくつか提案してますけども、
いろいろ日本ではできることあるじゃない
実際に「核軍縮・「緊張緩和」のために安全保障環境を良くするためにできることがいっぱいある、ということでここにいくつか提案したんですけども、このようなことを提案して、これ、日本はほとんどやってないですね、今は。
オブザーバー参加については、”慎重に吟味する”、とは言っていますが、公明党がオブザーバー参加に賛成なので、ひょっとしたらオブザーバー参加表明はするかもしれません。
 

 
最後の質問は、
9⃣「じゃあ、今後何が課題か?」ということなんですけども、
実際に〈TPNW(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)〉、(に批准しているのが?)国連加盟国の、まだ3分の1なんですね。(*4)
これはやはりちょっと少ないので、最初に賛成署名した88カ国これが
この(批准することに?)署名が目標ですね。それに加えて122カ国がですね、最初は賛成してますので、
100か国ぐらいいかないと、世界の過半数、ほとんどの国が賛成ですよ、ってことにならないと、確かに国際規範としてのまだ、あれ(力が?)が弱い、と。
それから、
・「検証措置」ってなかなか難しい。これがまだなかなか具体策ができていないですね。
こういうふうに、あとですね、制度的に問題としてあるのがこの「検証措置」なんですがこれらについて議論を詰めていく必要がある。
それから、
・「被害者支援」についても、制度的にはまだはっきりしてないところがある、と。
それから
・「世論の支持拡大」これですね。
これは議員に国会議員にアプローチするという、実際に運動しているグループがありまして、特に若者がですね、「議員ウォッチ」(*5)っていう活動をしていまして、それぞれの地元の議員に対してですね、”この条約に対して賛成か、反対か”、”なぜ反対なのか”、っていうのを聞く運動をしているということで、この「議員ウォッチ」ぜひ注目してください。
最後にですね、〈TPNW(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)〉ができてもですね、核兵器はすぐにはなくならないので、
「とにかく核戦争を防ぐ」と、これが非常に大事だということで、我々としては特にこのパンデミックの対策との絡みでですね、核戦争を防ぐための努力が必要である、と。
このRECNA(長崎大学核兵器廃絶研究センター)でやったプロジェクトがもう発表されてるんですけれど、もし皆さん、関心があればですね、「気候変動」と「パンデミック」と、「核兵器問題」、いうのを、この三つをですね、
『プラネタリーヘルス』(*6)という概念で結びつけてですね、
それで市民社会が手を取り合って核兵器の、核戦争を防ぐ、ということに協力すべき
という提言をしていますので、
我々としては、気候変動に関心のある皆さんとも連携していきたい、ということであります。
以上で終わります。ありがとうございました。
 

 

 

(*1)核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons、TPNW)
https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/database/condensation/tpnw
(長崎大学核兵器廃絶研究センター)
 

(*2)核兵器製造企業への融資をしていた銀行・金融機関の一覧
https://peaceboat.org/wordpress/wp-content/uploads/2018/03/abolition_bank_letter_20180306.pdf
(ican PDF)
 

(*3)日本政府の禁止条約への署名、批准など、条約への参加を求めている自治体、議会等
https://www.antiatom.org/Gpress/?p=16738
(原水協通信 サイト)
 

(*4)署名および批准状況
(現在、91 の署名国と 68 の締約国)https://www.icanw.org/signature_and_ratification_status
(ICANサイト)
 

(*5)議員ウォッチ サイト
https://giinwatch.jp/
 

(*6)プラネタリーヘルス
世界に拡がるPlanetary health
https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/pickup/ph_3.html
(長崎大学サイト)

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