「二律背反の構造と技術者」 中村崇氏 2023 6/6

コラム紹介

2023年6月6日  「二律背反の構造と技術者」

中村 崇 氏  東北大学名誉教授

はい、それでは、このような題でお話をします。
よろしくお願いします。

はい。それでは今日はこういう話(「二律背反(*1)の構造と技術者」)
です。
ある意味ずっと以前からやっているのとそんなに大きな違いはないんですけど、
ある意味ここだけを切り取るような形で進めたいと思います

実は、これはですね、もう私がリサイクルとかその他もろもろのことを始めたときに最初に作った図ですね。ほぼ最初だから30年以上前かな。
ある種、「環境負荷の低減」を行うのと、どうしても、エネルギー、当時はですね、カーボンニュートラルがなかったんで、エネルギーと、もう利用っていうのがですね、どうしても反比例という形になりますよね、というようなことを、非常に「概念的」というか、「定性的」に出して、
はっきり言うとですね、こちら側は「環境負荷」で、割と直接的な環境負荷ですね。「大気汚染」とか「水質汚染」とか、「廃棄物の拡散」とかということで、
こちらが実は「CO2」っていうか「エネルギー」なんですよ。
当時は、(今も基本的にあんまり変わってないんですけど)それで、
”直接的な「環境負荷」を落とすと、どうしても「エネルギー」要るよね”、というようなことを、当時言っていまして、
それで、”どこかでこういういい点があるんですかね?”、という話をしていました。
もちろん、技術者としてはですね、「これを全部落とす」ということを努力しなきゃいけないんですけど
はっきり言って、「できない」っていう部分がたくさんある、ということを言っていた
ので、こういう図を描きました。

課題というのは昔からあってですね、
例えば、ということで、
私が知っているような感じでは古い話だと、
「DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)(*2)とマラリア」っていう問題があって、
ご存知のように、というか、もう、この「DDT」という言葉というか、こういう薬品を知ってらっしゃる方、”知っている”ということだけで相当のお歳であるということが明確になるんですけど、
これ、「農薬」というか、「化学薬品」、「殺虫剤」ですね。
あと、これが、私の小さい頃っていうのはですね、これをですね、頭にかけてたんすよ。正直言って。小学校で。
こういうのが「環境に悪い」ということで、当然ながらこれ、”散布はやめろ”ということなんですが、
途上国ではですね、この散布をやめたら、マラリアが増加に転じた、っていうことで、もう一度かけ始めた、ということがあります。
これは、ある種の典型といえば典型なんですけど、このようなことがたくさんありますと、『環境』というキーワードをやるとですね、

それで、矛盾というわけではないんですけど、なかなか、両方両立が難しい、という意味で書くとこういうことになる。
・「有害物質の拡散」っていうのは、やはり「拡散防止」をやるとですね、「エネルギー消費が増える」方向に行きます。
こういうものをですね、水とかですね、大気から取ろうとすると、それなりに、どうしてもエネルギーが必要というか、エネルギー消費が増えるようなプロセスを入れざるを得ない、ということです。
それから、今としては懐かしいというかもう言葉としてほとんどなくなったかもしれない
・「ダイオキシン」なんていうのもですね、今でも法律上残ってますからね。
これを分解しようとすると、高温で分解し、なおかつ、そのエネルギーの熱回収ができずにですね、急冷しなきゃいけない、ということがあります。
もちろんそれと同じような形で「臭素系難燃剤のプラスチック」の問題も起こり得る。
あと平たく言うと、先ほどから言ってるように、
・「水、大気の浄化」というのはですね、これはどうしても「end of pipe」(*3)の技術を入れればそれだけエネルギー消費が増えます、と。
先ほどの図の一つが、やっぱり「自動車触媒」で、「三元触媒」(*4)を入れることによって、大気は、比較にならないくらいにきれいになりました。
それは素晴らしいことなんですけど、三元触媒ということは何を言っているかというと「PGM」 (Platinum Group Metals)(*5)を使わなきゃいけないんすけど、
ご存知のようにPGMとは非常に限られた資源で、かつ、作るのにすごいコストがかかります。
「金属を作る」というところよりも、「掘る」ところにかかるんですけど、なんせ原料がppm(*6)ですから、そういう問題ってのはやっぱり常にかかる、起こっている、ということになります。
あと、
・「資源循環」でもですね、”資源循環をするとエネルギーが余計にかかる”、っていうのはよくある話で、特に原料となるべき廃棄物というか、それのいわゆる「移動」、「ロジスティックス」にものすごい多くお金というかエネルギーがかかったりする場合があります、これも。
あと、”「埋め立て処分」と「焼却」をどっちがいいの?”、という議論をしたりするのも、そういうところに入るかも知れない。
こういうことはですね、結構どんなところ、というか、よく非常に、まま起こる、ということで、

今日はもうこれだけなんです、説明は。
それで、ここから、ぜひ議論していただきたいのはですね、これを、
”「技術で解決できる」というふうに、非常にポジティブに考える”か、ですね。
それとも、
”技術では難しいのではないのか”、というふうに考えるのか、って、
ここが一番、実は、今日議論をしていただきたい、というか、
自分自身もちょっと、”何とも言い難いな”、と思っているとこがあるので、
それをですね、この場でお話できればと思ってます。
私はですね、本来、”技術でできる派”だったんです。
ですけど、当然、それはなぜかというと、私はあの技術者というか
大学の先生っていう意味では、大学の先生業はやりましたけど、
基本的に言うと、いわゆる「サイエンティスト」「サイエンス」の方ではない。「テクノロジー」をずっとやってきてた人間ですので、
技術でできる、といういうことですし、技術が常に、社会のバウンダリ(境界、限界、限度)がかけられるので、その範囲内でやるべきもんだよね、というふうなことを、考えていた人間なんですけど、
それがだんだん「カーボンニュートラル」の問題が起こったりするという、あれですね、かなり変わってきた、と思っています。
そういうことで、ぜひ議論していただければと思っています。
「できる派」でしょうか?
「できない派」でしょうか?
ということです。
非常に簡単ですけど、プレゼンは以上です。
ありがとうございました。

 

 

 

(*1)二律背反
https://kotobank.jp/word/%E4%BA%8C%E5%BE%8B%E8%83%8C%E5%8F%8D-110704
〈コトバンク〉
二律背反の意味とは? 使い方や具体例、類語に哲学の由来もわかりやすく解説
https://news.mynavi.jp/article/20210115-1605744/
マイナビニュース
 

(*2)DDT(dichlorodiphenyltrichloroethane ジクロロジフェニルトリクロロエタン)
https://ja.wikipedia.org/wiki/DDT
〈Wikipedia〉
 
(*3)エンド・オブ・パイプ
https://eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4249
EICネット
 

(*4)三元触媒
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%85%83%E8%A7%A6%E5%AA%92
〈Wikipedia〉
三元触媒の全てがわかる!仕組み・種類・効果・交換時期・ディーゼル対応・理論空燃比解説
https://mbd-automobile.com/three_way_catalyst/
〈現役自動車開発エンジニアの自動車工学ブログ〉
 

(*5)PGM (Platinum Group Metals)
白金族金属(PGM)
https://www.greelane.com/ja/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E6%8A%80%E8%A1%93%E6%95%B0%E5%AD%A6/%E7%A7%91%E5%AD%A6/platinum-group-metals-pgms-2340166/
〈Greelane〉
白金族金属の供給と利用
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigenchishitsu/63/1/63_21/_pdf
〈J-stage〉
 

(*6)
ppm
https://ja.wikipedia.org/wiki/Ppm
〈Wikipedia〉

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