「ビジネスモデルの転換とシナリオ分析」 後藤敏彦氏 2020 5/8 

コラム紹介

後藤敏彦氏〈サステナビリティ日本フォーラム 代表理事〉

 

よろしくお願いいたします。

 

after corona、今、「コロナクライシス」の危機で「CC」(Corona crisis)でですが、気候危機も「CC」(Climate crisis)で、二つの「CC」(*1)が今後のビジネスモデルには影響する、と思っています。

 ビジネスモデルと言っても、”マクロのビジネスモデル”と、”個別の企業のビジネスモデル”という、両方が話題になってくるわけですが、これ、全然別のものではなくて、当然つながっているわけです。

 

それを今後考えていくうえで、やはり、〈TCFD〉(*2)という金融安定理事会(*3)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Climate-related Financial Disclosure)」が2017年6月に出した最終報告書で、「シナリオ分析」っていうことを推奨しています。日本企業も〈TCFDタスクフォース〉に250社ほど賛同しておりますので、これから、コロナ後には、この「シナリオ分析」の問題が大きな課題になってくる、と私は考えております。

 

 

これからの世界で、ビジネスモデルを転換していく必要が、たぶんあるだろうというふうに私は考えておりますが、

 

 

例えば、自動車業界について言うと、この2月に、イギリスが「2040年にガソリン車の販売も禁止」と言っていたのを、「2035年に前倒し」とか、昨年、「メルセデス・ベンツがエンジンの開発を中止」を発表する、など、いよいよ、脱炭素の動きが大きくなってくると思われます。

 

ここ10年考えても、いろんなことが起きるわけですが、特に、④番目に書きました、自動車・モビリティーに関する「MaaS」(*4)(マース:Mobility as a Service)『Mobilityのサービス化』「PaaS」(*5)(パース:Product as a service)『製品のサービス化』「SaaS」(*6)(サース(サーズ):Software as a service)『Softwareのサービス化』等、ありとあらゆるものが「サービス化」していくのではないか、つまり、「XaaS」(*7)(ザース:『X』(Everything) as a service)》、等々です。

 

我々のやっております〈サーキュラーエコノミー(CE)〉も、これから、日本の「循環型社会」とは違って、大きな課題になってくると思います。

 

1月の講演会、MVC(広域マルチバリュー循環研究会)の講演会で、”サーキュラー・エコノミーと親和性の高いビジネスモデル”ということで、「シェアリング・エコノミー」とか、「サブスクリプション・ビジネス」、「サービスマネジメント」、などというようなことも、ちょっと話をさせていただきました。

 

 

企業のサスティナビリティを考える上で、先ほど言いました、

 

 

TCFDの「ファイナル・レポートのリコメンデーション(Final Report,  recommendation)(*8)」がこれですが、私のところで208ページ全文翻訳したものが、下にありますように、Webに貼り付けてありますので、ぜひ参考にしてください。

 *サステナビリティ日本フォーラムサイトより

ライブラリ

 

 

ここで言ってるのが、『シナリオ分析』なんですが、必ずしも容易ではないので、5年くらいかけてやりましょうというのが、提案ではあるんです。しかし、5年もかけてシナリオ分析やってたんじゃ間に合わないので、ここ1,2年で、先ほど申し上げた「TCFDコンソーシアム」に加盟している、賛同した250社は、何らかの形で始めざるを得なくなる、というふうに思っておりまして、実は、「サスティナビリティ日本フォーラム」では、今月から、そのプロセスの実験を始めようと思っています。

 

そのことをちょっと、お話しして、今後、”サステナブルなビジネスモデル”を考える上での、プロセスのことについて今日ちょっとお話しします。

 

”コロナ後の社会がどういうものか”、という問題ではなくて、”〈プロセス〉のことについて”、議論ができたらいいなと思っております。

 

 

目標設定のアプローチについて言えば、大きくは2つで「フォアキャスティング・アプローチ」と、「バックキャスティング・アプローチ」があります。 

そして、今までの日本の企業というのは、GPIFの調査でも、だいたい7割くらいが、3年から5年の中期計画しか持っていないんですね。

それはだいたい基本的に、「フォアキャスティングアプローチ」であり、どちらかというと積み上げベース。到達目標を決めて、それを「中期計画」と言っているんです。

 

この不確実性の世の中で、「バックキャスティング・アプローチ」が求められだしています。

つまり、2050年の世界はどんなもんになっているんだろうか、そこで我が社は一体どうなって行くのか、ビジネスはどうなっているか、我が社はどのような姿になっていたいのか、というようなことを考えて、そこから現在に引き戻して、その”ありたい姿”に向けて、ロードマップを作っていく、っていうのが、「バックキャスティング・アプローチ」です。

 

そのためには、例えば”長期、2030年とか、2050年の社会はどんなふうになっているか”、それから、”その時に我が社はどうありたいか”、ということを決める必要があるわけですが、これは、今までの「積み上げ」とはもう、全然違うアプローチを取らなければいけないわけです。

 

 

これはまあ、イメージですが、ありたい姿を描いて、そこから現時点に戻って、ロードマップを作っていくと。

現在の日本企業の多くは、7割くらいは、左にありますように、「3年−5年の計画」を、その都度積み上げて行く、という形になっているわけです。

 

シナリオ・プランニングは、「複数の、あり得る経済社会のシナリオ」を創らなくっちゃいけないわけです。

 

これが最も有名なのがシェルで、シェルの場合は「オーシャンズ」というのと「マウンテンズ」という2つのシナリオを公表しています。さらに、また「スカイズ」というのをつくり、合計3つのシナリオを作っているわけなんです。

その3つのシナリオを見ながら、自社の戦略を、そのシナリオを分析しながら、やっていくわけです。

 通常ですね、「経済社会シナリオ」というのは皆、〈予測〉として1つ作るわけですが、これはだいたい全て外れるわけなんで、シェルがやった〈シナリオプランニング〉は、”複数シナリオを見て分析する”、というやり方です。

 

TCFDを狭く解すると「気候変動に対するシナリオの分析」になるわけですが、「気候変動のシナリオ」は、皆さんご存知のように、”RCP何々~”って、幾つもありますので、その幾つかを見て分析すれば、「気候変動に対する企業の戦略」は作れますが、それは「企業の発展戦略」と繋がっているか、というと、「気候変動対策」だけになりかねません。

 今後の、”コロナ後の企業の戦略”というのは、「気候変動」だけではなく、”「SDGsにどう対応するか」「企業の発展戦略をどう対応するか」”、というようなことを合わせた、『統合的なシナリオ』を分析しなくちゃいけない。

 

そのためには「複数のありうる社会シナリオ」が必要です。

一つは、破滅シナリオではないが「悲観的シナリオ」” があると思います。

 もう一つは、バラ色ではないけど「ある意味での楽観的シナリオ」” があります。

 他にも、その業界独特の、”2030年なり2050年”とかいうシナリ等が考えられます。

複数のシナリオを見ながら、「”いったい我が社はどんな企業になりたいか”、という〈目的地〉を作り、そこからバックして、やっていく」、という〈ロードマップを作っていく〉というやり方です。

 

これは私、去年ある会社で、お金を出していただいて、一週間くらいで「プロセス練習」をしたんですが、結構、企業でも本気でやるとなると、数ヶ月では済まない。

シェルは何億もかけてやった、というものの「プロセス実験」を、今年から始めようと思っています。

 

というわけで、『今後、企業の戦略を策定して行くプロセス』というようなことについて、今日議論ができればと思っております。

 

(参考資料)

TCFDとシナリオプランニング・分析

https://www.gef.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/190719goto.pdf

 

(*1)2つの「CC」

気候危機(Climate Crisis)とコロナ危機(Corona Crisis)

~2つのCCにどう対応、どんな社会像・企業像を描くか~

http://www.geoc.jp/content/files/japanese/2020/08/01_200825_PartnarshipSeminor_Sus-FJ.pdf

 

(*2)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)

TCFD公式サイト

Task Force on Climate-Related Financial Disclosures | TCFD)
The TCFD has developed a framework to help public companies and other organizations disclose climate-related risks and opportunities.

環境省サイト

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
環境省のホームページです。環境省の政策、報道発表、審議会、所管法令、環境白書、各種手続などの情報を掲載しています。

 

(*3)金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)

金融安定理事会(FSB)とは何ですか?(日本銀行サイト)

金融安定理事会(FSB)とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

金融庁サイト

金融安定理事会(FSB)

 

(*4)「MaaS」(マース:Mobility as a Service)

ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、 マイ カー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念

日本版MaaSの推進(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/

https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf

次世代の交通MaaS(総務省)

総務省|情報通信統計データベース|次世代の交通 MaaS

 

(*5)「PaaS」(パース:Product as a service)

製品のサービス化(Product as a service以下PaaS)

サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは?(IDEAS FOR GOOD記事)

サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは? | サステナビリティ・SDGs 事業開発支援 | I4G Business Design Lab

*「PaaS」には、「PaaS(Platform as a service)」も有り。

IDCFrontier

PaaSとは | クラウド・データセンター用語集/IDCフロンティア
PaaS(パース)とは Platform as a Service の略で、アプリケーションを実行するためのプラットフォームをインターネットを介して提供するサービスのことです。PaaSを利用することで、アプリケーションの開発前の準備を大幅に省略できます。

 

(*6)「SaaS」(サース(サーズ):Software as a service)

カオナビ

https://www.kaonavi.jp/dictionary/saas/

IDCFrontier

SaaSとは | クラウド・データセンター用語集/IDCフロンティア
SaaS(Software as a Service:「サース」または「サーズ」)とは、ソフトウェアをクライアント側に導入するのではなく、サーバー提供者側で稼働しているソフトウェアを、インターネット等のネットワーク経由でサービスとして利用する状況を指します。

 

(*7)「XaaS」(ザース:『X』as a service)

XaaSとは「X as a service」の略で、クラウドによって提供されるサービスの総称です。 aaS(as a Service)は、サブスクリプション型のビジネスモデルのことで、リース形式でサービスを提供するという意味です。

it-trend

XaaSとは?どんな種類がある?クラウドのメリットも解説|ITトレンド
XaaS(X as a Service)とは、インターネットを通じて提供されるサービスの総称で、読み方はザースです。PaaSやSaaS、MaaS、ZaaSなど似たような言葉がありますが、どういった意味なのでしょうか。この記事ではXaaSの意味を解説し、サービスの種類やクラウドのメリットを紹介します。

すべてをサービス化するXaaSとは

~全てのサービスで「所有or利用」の切り分けが必要な時代になる~

(NECネクサソリューションズ記事)

すべてをサービス化するXaaSとは - 情シス事情を知る | NECネクサソリューションズ
すべてをサービス化するXaaSとは

SaaS、PaaS、IaaSにGaaSやZaaS 増え続けるXaaSを整理する(IoTNEWS)

SaaS、PaaS、IaaSにGaaSやZaaS 増え続けるXaaSを整理する | IoT NEWS
XaaS(ザース)という言葉がある。 IT用語辞典バイナリによれば、XaaSとは、「情報処理に用いら…

 

(*8)レ(リ)コメンデーション(recommendation)

推薦、推奨、推薦状、勧告、忠告、取りえ

https://ejje.weblio.jp/content/recommendation 

(翻訳では「勧告」としたが、日本では「提言」という使われ方が一般的です。)

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