「バッテリーの資源強度」 山末英嗣氏 2021 5/3

コラム紹介

山末英嗣氏(立命館大学教授)

よろしくお願いします。
今日はこういうタイトルで発表するんですけれども、いつも、まあ、そうなんですけれども、今日は特にですね、皆様方に、
”こういう新しいことが”、とか、こういう”啓蒙活動”をするというよりも、
これは、ちょっと途中の結果なんですけれども、
”こういったことやってて”、”こういう考えがあって”、
ただ、私、バッテリーってそんな知らないので、「その解釈でいいのか」とかですね、ちょっと、むしろ、ご意見を募りたいと、そういう体勢というか考えでですね、いきたいので、ぜひ忌憚のないコメント等いただければありがたく存じます。

それで、復習になるというわけではないんですけれども、私がずっと興味を持ってやってることはですね、
『採掘活動』ということであります。
今、2050年、「炭素制約」とかね、「カーボンニュートラル」といった話ございますけれども、
カーボンももちろん大事なんだけれども、その際、その裏にですね、いろんな「資源採掘活動」があるだろうと。
この図私が好きなのでよく使っている図でして、我々、”オギャア”と生まれて、最後死ぬんですけれども、いろんな便益をですね、当然家に住んだり、スマホを使ったり、あるいはいろんな輸送機関を使ったりするわけですよね。
これらの背後をずっとさかのぼっていくとですね、最終的には「地球を掘る」と、いう活動に行き着くだろうと。
これは別に食料とかも同様で、畜産とか肉に直接採掘活動がないように思うかもしれないんだけれども、畜産をするときにはですね、飼料を与える必要があって、飼料を育てるためには肥料とかですね、農薬も要る、と。
肥料に入っている「P」とか「K」、まあ、「リン」とか「カリウム」は、結局、いわゆる鉱石から取る必要がある。
なので、最終的には採掘活動に気づくだろうということです。
こんな感じでですね
”我々が生きていく上で、どれだけ地球を攪乱しているんだろう、地球を採掘しているんだろうか?”、
ってことが私のモチベーションで、いろいろ研究してるということです。

そんな過程でですね、『資源パラドックス問題』という言葉を作ってですね、いろいろ提案しておりまして、
いわゆる「低炭素・脱物質」っていうのは我々共通の目標になることは間違いないだろうと思うんです。
そのためにですねいろんな『グリーンイノベーション』があって、
例えば、「次世代自動車」というのはその代表例ですね。
これを作るときにですね、
「ネオジム(Nd)」「ジスプロシウム(Dy)」「コバルト(Co)」とかですね、「ニッケル(Ni)」「銅(Cu)」「白金グループ(族)(PGM)」(*1)或いは「リチウム(Li)」といった、
今までに必要としなかった、あるいは使っていたんだけど、それより遥かに大きな量のですね、追加的な資源が要る場合があって、いわゆる
”「脱炭素」「脱物質」のためにはいくらでも資源を使ってもいい”、
といった考えになっててしまいがちなこともあると、もちろん考えてないとしても無意識にそういうことをしてしまう可能性がある、と。
”これはまずいよね”、ってことで、こういった
『資源パラドックス問題』という言葉を作ってしまった、というわけです。
そのいくつかの代表例を示しますと、

これ、何かっていうとですね、いわゆる自動車ですね。
「〈CV〉コンベンショナルビークル」(従来型の自動車)、
「〈HV〉ハイブリッド」(電池のパターンで2種類、「Ni-H」と「LiB」)
「〈EV〉電気自動車」
「〈FCV〉燃料電池車」
となってますね。
これ縦軸がいわゆる「『掘る』という活動量」
我々、《TMR(Total Material Requirement:関与物質総量)》(*1)と呼んでますけれども、
地球の(鉱物資源)、どれだけ採掘活動したかというのを、「重さ」で評価したものですね。
どの自動車も、最近、若干重量化してますけれども、1tから1.5tぐらいっていう範囲で入っていて、
それを作ろうと思うとですね、
「〈CV〉コンベンショナルビークル」(従来型の自動車)の場合には、
20倍ぐらい掘ればいいわけですね。約20tぐらい掘ればいい、と。
これが
「〈HV〉ハイブリッド」になると、
ドンと増えまして、50tから60tと、
「〈EV〉電気自動車」になると、
70tを超えてしまうわけですね。
これ今、(26.6kWh)と書いてますけど、これはバッテリー容量でして、今は40kWhとかですね、場合によっては、60kWhという、すごい、主流になってきます。場合によっては90kWhとかですね120kWhのもあったりするんですね。
そして、いわゆる
「〈FCV〉燃料電池車」は水素を使うわけですけど
これはちょっと減ってこれぐらいと、いずれにしても高い。
という問題が起きているわけですね。
じゃあ、例えば、
この「〈EV〉電気自動車」のところで約70tと、
「〈CV〉コンベンショナルビークル」(従来型の自動車)の20t
の差の50tって何か?、っていうと、
実はこの差のほとんどがですね、この26.6kWhの「〈LiB〉リチウムイオン電池」が原因になってくるということです。

「〈LiB〉リチウムイオン電池」自身はですね、こんなふうな構造になってまして、
ちっちゃい「セル〈Cell〉」と呼ばれるものを組み合わせて、
「モジュール〈Module〉」というのを作って、
モジュールをさらに組み合わせて、「一つの大きな塊〈Pack〉」を作ってあげる、
ということです。
ここに大量の「銅(Cu)」とですね、まあ、「コバルト(Co)」とかいったものが使えてるわけですね。どれぐらいの大きさがあるかと言いますと、

大体、いわゆるさっき言った26.6というkWhの容量を作るのに、
約250kgの重さのバッテリーが要るんだけれども、これをですね採掘活動に変換すると、約200倍に膨らんで50tぐらいだと。
この50tが、さっき言ったちょうど差分になってまして、20tと70t、差の50tがこれになるということです。
”いかにこのリチウムイオン電池のいわゆる『採掘』っていうところの負荷が大きいか”、となってくるわけですね
そして、今言ったように、

この、(たったの)今となったらちっちゃいサイズの(バッテリー容量)26.6(kWh)で、50tもあるわけですから、
これが2倍、3倍になってくると、それがざっくり単純計算では100t、150tになっていって、もう、とてつもない量になっていく、というふうになっていくわけですね。
これ確かに、「低炭素」なんだろうけれども、「本当に環境にいいの?」といった疑問が起きてくるわけですね。
場合によってはですね、これ実は、あくまでも〈製造段階〉だけですので、これ〈走行段階〉では燃費がいいので、そこで回収できるんじゃないかと、こう思われる向きもあるかもしれません。こういった解析をしてみると、
横軸に「走行距離」をとって、縦軸にさっき言った「採掘活動《TMR》」といったものをプロットしてあげると、

まずこれが、
燃費がリッター10(まあ、ちょっとはいいですね。今からすると)走る
「〈CV〉コンベンショナルビークル」(従来型の自動車)の「TMR推移」で、
最初の生産段階では約20t、ドンと食べて、燃費に応じて燃料食うのでこういう形になってくると。

当然燃費がいいとですね、燃料もあまり食わないので傾きが下がってくる。
もっと燃費がいいと、このぐらい下がる、と。僕の持ってる車はこれぐらいなんですね、大体。
という感じなってます。
これが「〈EV〉電気自動車」になるとどうなるかっていう話をすると、

最初に、ドーンと、こう、70t、80t行って、燃費はたしかにいいんですね、傾きが一番ちっちゃい。
ただし、10万km走ると、バッテリーを交換する必要が起きて、ドンと、これは上がってしまう、ということです。その繰り返しですね。
この傾きがですね、電力を使うわけですけれども、今のは2016年の電力ミックスを使っているので、

少し前の1995年の「原子力(発電)」を使っていた頃の電力ミックスを考えてみると、少しはマシになるんですよね。
で、もっと究極的にこの電力を全部「再生可能エネルギー」で取ったらどうなるか、という話をすると、こうなるんですね。

多少良くなるんだけど結局ですねこれぐらいの状態ですと、リッター10(km)走るガソリン自動車に大して差は無い、というふうになってくる、と。
仮に、「この電池交換をしなきゃいいんじゃないか?」って話があって、
たしかにその場合だとこういって、15万kmぐらい走れば差が出てくるんだけれども、
さっきも言ったように、これはすごくバッテリーがちっちゃいのを想定しています。
これが、最初の、バッテリー容量が40(kWh)となると、大体これがもう少し増えて、このようになってきます。、
そして、60(kWh)っていうのもあったりしますね。それはもう、これぐらいになってくると、50tずつ増えていきますからね。増えていって、90(kWh)とかになると、このようになっちゃうんですね。
そうすると、バッテリーを仮に交換しなくても、従来型の自動車、しかもリッター10(km)に追いつくには20万km、30万km走る必要があって、
”それって本当に環境にいいの?”っていう話になってくる、ということを言いたかったわけですね。

 

ちなみに「〈FCV〉燃料電池車」はこんな感じなので、まあ、「水素をどこから作っていくか」っていうのはありますけれども、僕としては、個人的にはFCVに興味があると。
こういったことをですね、少し前の「談論風爽」で話したんです。復習です。
ちょっと興味があったのがですね、
じゃあ、電池は「リチウムイオン電池」ってのがありますけれども、もう少し丁寧にやっていくと他にもいろんな電池があるわけですね。
「ニッケル水素電池(Ni-MH:Nickel–metal hydride battery)」(*2)だったり、「鉛蓄電池」(*3)もあったりする、と、
じゃあ、それの、いわゆる《TMR》(採掘活動資源強度)はどれぐらいあるか、っていうことを、ちょっと議論進めようということで、

confidential

まず、『重量あたりのTMR係数』ですね、出してみたのは。
「リチウムイオン電池」「鉛蓄電池」はいろいろなソースがあったんで、4種類ぐらい。
「ニッケル水素」も出してみたわけですね。
「ニッケル水素」に関しては、ちょっと若干…これは車載用じゃなくて、ちょっと違う用途かもしれないので、多少ズルいかもしれないのですが、、こうなっています。
そうしますと、さっきも言ったように、
「リチウムイオン電池」は、1㎏作るのに大体200(kg)ぐらい要る、と、
「鉛(電池)」はすごい下がってくるんですね。50から60(kg)ぐらい、と。
今までの話ですとですね、「リチウムイオン電池」をすごい悪者にしてきたんだけど、
実は「ニッケル水素電池(Ni-MH)」もかなり悪い、もっと悪い、と。
鉛は重いからですね、重さあたりすると、こうなんですよね。
ただ、こういった議論があるんだけれども、そもそも、これ「重量あたり」で評価してるんだけども、
電池の機能ってそもそも「重量」で提供されるんじゃなくて、そこに入っている、いわゆる「貯めた電気・電力」をですね提供する、ってことなので、重さ単位で比較するのはフェアじゃないんじゃないか、と、どっちかと言えばそこに入っているバッテリーの「容量」ですね。「バッテリーの容量で比較した方がいいんじゃないか」、ということで、
「kWhあたりのTMR」ということで評価をしてみようと、いうことになったんですね。

confidential

そうすると、こうなるんですね。
「リチウムイオン電池」の値がずっと下がって、1kWhを提供するのにどれぐらいの採掘活動が要るか、という話になってきて、
こう考えてみるとですね、「リチウムイオン電池」は、「鉛電池」と同じぐらいでいいんですよね。
ただしここで言う「鉛蓄電池」はですね、いわゆる”一次鉛”(*4)を使っていると仮定して計算したんです。なので実際にはこれ、”二次鉛”をかなり使ってるので、大体計算すると、半分ぐらいになるんですね。こういう意味では鉛はかなり優位性が高い、と。
「容量あたり」で考えても、かなり優位性が高いと。
一方で、「ニッケル水素電池(Ni-MH)」はかなり悪いよねと。あまり嬉しくない結果だな、というふうになってくるわけですね。
こんな意味でですね、「鉛バッテリー」っていうのは、重さはすごく重くて良くないんだけれども、まあ、それ以外は実は結構優れた電池ってことがわかってくる,
ということです。

confidential

「重量当たりの容量」を見てみると、(「重さあたりの容量」ですね。)
「リチウム電池」は、これは非常に大きいと、どれぐらい?すごく大きいですよね。
これ(鉛電池)の2.5倍ぐらい大きい、と。
「ニッケル水素電池(Ni-MH)」は、いいかと思ったら意外と悪くて、
「鉛蓄電池」よりも、そんなに良くないんですよね。ちょっとだけいいんだけど、(それほど、大して)良くないと、
「リチウムイオン電池」が突出しているだけで「鉛電池」が特に悪いってわけじゃない、と。
但し、まあ、とは言ってもですね、この”2.5倍の差”って結構大きくて、今、「リチウムイオン電池」250㎏と先ほど申し上げましたけれども、これはやっぱり、2.5倍になって、1tくらいになると、やはり嬉しくないわけですね。(1tじゃなく、600㎏くらいかな?)
とは言っても、やっぱり車の重量が600㎏って大きいので、元々が25㎏ぐらいで済めば、これが60kgで、大したこと無いんだけれども、元々が250㎏の重さがあるので、これが2.5倍重くなってしまうとすごい大変だな、というのが確かに、まあ、わからなくもない。
但し、移動しない媒体であれば、「鉛蓄電池」っていうのは非常に資源効率が高いことがわかります。

confidential

一応、参考までに、この評価がどれだけ意味があるかどうかわからないんだけれども、
『各電池の価格あたりのTMR』というの計算をしてあげると、
これはどういう意味かっていうと、
「『単位経済価値』を生み出すあたりにどれぐらい『掘る活動』があるか」というふうになってくるんだけども、「リチウムイオン電池」が高いと。
「鉛蓄電池」もリサイクル材を使っているんで、半分ぐらいになるので、かなり、「リチウムイオン電池」に肉迫してくるんだけれども、「リチウムイオン電池」がですね、こうやって使われるっていうのは、こういったことも実は反映されてるのかな?、というふうに思ったりもします。
今、「リチウム電池」は1kWh当たり、大体20万円かかるんだけども、これがもう少しね、3倍くらい安くなると、「鉛蓄電池」も需要があるんじゃないかというようなこともあるので、
この辺の評価を進めていきたいなというふうに思ってるんだけども、こういった観点の評価ってどうなんでしょうね、というのが私の今回の疑問で

一応まとめておくと、

○『重量あたり』で考えると、「鉛蓄電池」の資源強度は低い

○『容量あたり』で考えると、「〈LiB〉リチウムイオン電池」「鉛蓄電池」の資源強度、採掘活動も低い

○『価格あたり』で考えると、「〈LiB〉リチウムイオン電池」の強度は低い。

○『やはり「〈LiB〉リチウムイオン電池」なのか?』と。

・移動を考えないような定置利用では「鉛蓄電池」もかなりいい
リサイクル性も高い

・リチウムイオン電池は、今、リサイクルされてない。
されようとしてるんだけれども、なかなか、”これは”、というのは無い。

○課題:「NaS電池」(*5)の評価
定置利用で「硫化ナトリウム(NaS)電池」が注目されている。
その辺の評価はしてないので、そこもやってみたいと思っている

「鉛蓄電池も捨てたもんじゃないのかな?」
と私は思ってるんですけれども、それに対して皆さんどう思うか、っていうところをですね、忌憚のないコメントいただければとても嬉しいと思っています。
ということで、私の発表というか、相談というか、終わりたいと思います。
ありがとうございます。

 

 

 

 
(*1)PGM
PGM(白金族)とは?プラチナ・パラジウムの歴史や特徴とその用途
https://www.oanda.jp/lab-education/metals_basic/pgm/history_features_uses/

 

(*2)TMR
TMR(関与物質総量)データベース
http://www.ritsumei.ac.jp/~yamasue/tmr/index.html

〈エネルギー・資源循環工学研究室(山末研究室)〉

 

(*3)リチウムイオン電池

リチウムイオン電池の仕組み【基本をわかりやすく】https://techs-blog.com/lib/basic/
〈Techs blog サイト〉

 

(*4)ニッケル水素電池

ニッケル水素電池:電池に水素吸蔵合金を使うという発想
https://solid-mater.com/entry/nih
〈はじめよう固体の科学 サイト〉

 

(*5)鉛蓄電池

鉛蓄電池 - Wikipedia

〈Wikipedia〉

 
(*6)一次電池、二次電池

テクの雑学
第32回 一次電池・二次電池とは?違いや構造を解説
https://www.tdk.com/ja/tech-mag/knowledge/032

〈TDK TECH-MAG サイト〉

 

(*7)NaS電池

NAS電池とは

NAS電池とは
NAS電池はメガワット級の電力貯蔵システム。NAS電池はナトリウム(Na)と硫黄(S)の化学反応によって充放電を繰り返す蓄電池(二次電池)です。「NAS」は日本ガイシの登録商標です。

〈日本ガイシ サイト〉

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