『欧州のCircular Economyと循環型社会に関する考察』(LCA学会2016/3)
1. 不可避的な循環型社会
日米欧の三極経済に発展途上国が参入することで起こった資源価格の高騰はいったんひと段落が過ぎたが、この10年間に世界は新たなレベルに突入した。それは、世界の一人当たりの平均GDPが1万ドルを超したのである。この一人当たり1万ドルというのは経験的に一つのターニングポイントであり、鉄鋼をはじめとする金属の一人当たりの消費がいわゆる欧米並みのレベルに達するポイントである。
さらに、今後の平均GDPは確実に増えつづれることが予想され、人口の多いインドやパキスタンも今世紀の中盤には一人当たり1万人を超すことが予想されている。すなわち、今世紀の末には世界中の国の約100億の人々が現在の欧米並みの金属需要を持つことが予想される。図1は、それに基づき、それまでに直線的な変化と単純化して、今世紀末までの各金属の需要予測と、それを天然資源で賄える分(上部の赤)とリサイクルで賄う必要が出てくる量(下部の緑)を表したものである。
Al,REE,Li,Mg以外の金属では現有埋蔵量は今世紀中にそのほとんどを消費し、多くの部分がリサイクルにより供給される必要がある。まさに循環型社会の構築が世界的にも求められる。 このような状況の中でEUで資源効率の取り組みの重要な柱として打ち出されたのがCircular Economyである。まず、その内容をみてみよう。
2. An EU action plan for the Circular Economyの特長
2.1 改正の施策
2015年12月2日にEUは” An EU action plan for the Circular Economy”を発表し、それに合わせて廃棄物の減量の目標の明確化と、長期的な廃棄物処理とリサイクリングへの道の確立のためとして、法律改定を各国に提案した。その内容は、
-2030年までに一般廃棄物の65%をリサイクルする。
-2030年までに包装廃棄物の75%をリサイクルする。
-2030年までに総ての廃棄物の埋立を10%以下にする
-分別収集廃棄物の埋立禁止
-埋立を抑制させる経済措置の推進
-リサイクル率の全EUを通じる単純で改善された定義とそれと合致する算定方法
-リユースを促進する具体的施策と、ある産業のバイプロダクツを他の産業の原材料にするindustrial symbiosisの促進
-製造者がgreen productsを市場に出し、回収とリサイクルのスキームをサポートするインセンティブ
である。
数値目標が記されているためにそちらのほうに議論が行くが、本質的に重要なものはAn EU action planそのものである。
2.2 アクションプランの導入部分
アクションプランは、introductionのあと1.Production, 2 Consumption、3.Waste Management、4.From Waste to Resourceとライフサイクルに沿っての対策が整理された後、5.Priority areaに焦点が当てられ、そこでは5.1 Plastics, 5.2. Food Waste, 5.3. Critical raw materials, 5.4 Construction and demolition, 5.5 Biomass and bio-based productsが取り上げられている。さらに、6.Innovation, investiment, and other horizontal measure, 7. Monitoring と続いている。
まず重要な部分はintroduction であり、その冒頭から「よりcircularな経済へのtransition」という「創生・構築」の課題ではなく「transition=移行」課題としての記述があり、「製品、素材、資源の価値が経済面でできるだけ長く維持され、かつ、廃棄物の発生が極小化される」とcircular economyを定義づけている。そしてそれは、ヨーロッパの経済を転換させ、新たな持続可能で競争力のある優位性を欧州にもたらすとしている。
2.3 それぞれのライフステージでの重点
Productionに於いては、より良いデザインがもたらすものとして、長寿命、易修理性、アップグレード性、リマニュファクチャ性、リサイクル性が取り上げられている。また製造プロセスでは原材料のサステイナブルな調達を促進する視点で、BAT参照文書(Best Available Techniques Reference Documents,BREF)の作成公開を行いmining wasteのbest practiceの促進をすすめるとしている。また副産物の利用によるindustrial symbiosysの促進を謳っている。
Consumptionではreuseのアクティビティを高める施策や、易修理性やdurabilityを重視するとしているとともに、偽環境主張に立ち向かうことやグリーン調達の促進を掲げている。またpriceはキーファクターであるとして税制のような手段でインセンティブを与えることも求めている。
Waste managementでは、先に触れた目標に合わせた法制度の改定が支持されているとともに、国ごとの廃棄物処理に対する投資ギャップやEUの内外の非正規の廃棄物輸送をなくす結束力ある政策を要求している。
From waste to resourceでは、リサイクルによって人間経済圏に引き戻された材料を新たな材料として「secondary raw material」として重視し、その活用のバリア克服として、品質の問題を解決するhigh-grade recyclingとその品質保証の標準化を謳っている。また水、堆肥のリサイクルを項目として取り上げているのも特徴である。また、化学物質管理、製品、廃棄物を結び付けたり国境移動の情報を共有できる電子データ交換システムやそれらをサポートするマテリアルフローなどの原材料情報の展開を掲げている。
重点領域では、plasticが取り上げられ、そのリサイクルが強調されている。Food wasteではサプライチェーンでの管理が強調されている。Critical raw materialにおいても回収が重視されており、ベストプラクティスのレポートを準備するとしている。Construction and demolitionおよびBiomass and bio-based productでも有用物のリサイクルに重点が置かれているが、特に後者ではバイオマスのカスケード利用等でのbioeconomyのイノベーションのサポートが謳われている、
3 考察
Circular Economyを「再度欧州は循環型社会の構築に力を入れだした」とみる見方もあるが、それは間違いである。アクションプランのイントロダクションの中でも強調されているように、欧州に経済活性をもたらすことが主目的である。これはそもそも資源効率自体がhorizon2020という経済活性施策の一翼に過ぎないことからも明らかである。
また、日本の循環型社会は、生産者、消費者、リサイクラーが一体となり責任を分担して循環型社会を作り上げる構造であるが、国際資源フォーラム等での欧州の議論では生産者が欠落した議論が多くみられる。図2はその時欧州のキーパーソンに示した両者の対比であり、欧州は生産者を含めた循環型システムそのものを構築するよりも、消費ベースでの循環システムのビジネス化を目指しているのではないかと問いかけ、基本的な合意を得ている。
このことはE-waste問題などでのアフリカへの対応にも表れ、国際標準化・認証の動向に置いても問題解決型ではなく、equivalent partner探しの要素が強い。それは二次資源の国際認証に置いても廃棄物処理やトレーサビリティよりも法の順守や社会的責任が中心になって議論される傾向になっている。
特に注意すべき部分はproducerが相対的にシステム外に置かれる傾向が強いことである。Producerへのインセンティブは殆ど議論されず、エコデザインにしろプラスチックにしろシステム外にいるproducerへのリクワイアメントとみられる議論が多い。これは、ダボス経済会議の報告の中でも国際的マテリアルフローの変化に関して議論されており、製造という従来型の価値の創生部門が相対的に希薄になった欧州において、どこに価値の創生を見出すのかという観点で、資源効率やCircular Economyが語られている。
結論的に、EUのCircular Economyは「循環型社会の構築をめざすもの」ではなく「循環型のシステムに付加価値をつけるための施策」である。そしてその付加価値の由来はサステイナビリティである。
その意図は同意できるとして、従来型の価値の創生基盤である「ものづくり」が希薄になりつつある欧州においてサステイナビリティの付加価値かが先行することは、ある意味では跛行的にグローバル化される危険性も有している。我が国が積極的に健全で責任あるCircular Societyを提示していくことが必要であり、LCA学会も設立の原点に立ち返って、環境影響定量評価学としてその先頭に立っていく必要があるであろう。
(原田 幸明)
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