「サーキュラー・エコノミー」は現代の黒船ではない! 「サーキュラー・エコノミーで変わる」のではなく「サーキュラー・エコノミー的視点でとらえなおす」ことが問われている

サーキュラー・エコノミーに関して、その概念先行型で「サーキュラー・エコノミーになると何ができるか?何をすべきか?」「サーキュラー・エコノミーになったらモノつくり日本はどうなるのか?」などの議論がしばしばおこなわれるようになってきた。それはそれで積極的な要素を持つが、サーキュラー・エコノミーは黒船のように突如現れた変化を迫る外的因子なのだろうか。

ここで視点を変えて、「サーキュラー・エコノミー」は「将来の姿」ではなく、現在すでに起こっている変化を「従来とは異なった見方でとらえなおす」だけではないかという議論を提出し置きたい。

サーキュラー・エコノミーの整理

まずサーキュラー・エコノミーについて整理しておくと、基本的に次の図のように表される。

すなわち、資源効率の向上として旗印のもとに、資源消費とディカップリングした経済発展が追求され、残存価値を駆動力として、そのためのサービサイジングを指向したプラットフォームが形成される。残存価値は次の図のように、従来の使い切り製品の使用済み残存価値から共有空間経済へと拡張していく。そのなかで、「モノ」のビジネスから「コト」のビジネスへの転換が推し進められ、資源依存度の小さな経済へと向かっていく。

このような、サーキュラー・エコノミーに対し、「サーキュラー・エコノミーに対してわが社はいかに対応していく」あるいは「サーキュラー・エコノミーを如何に取り組むか」という議論がだいぶ行われるようになってきた。その際、注意しなければいけないことは、サーキュラー・エコノミーやそこから導き出される「モノからコトへの変化」を「黒船」のように外的変化としてとらえる議論である。

 

消費者はすでにモノではなく技術のインテグレイトに出費している

 

個人的な話だが先日我が家のリフォームに施工業者が入った。よくよく見てみるとその業者は具体的な作業は何も行わず、個別技術を持っている業、たとえば大工業、クロス業、さらにはメーカーごとのユニットパス業などを手配し、監督するのが仕事になっている。「施工業」は「施工」はしておらず、関連技術群をパッケージ化して施主の要求に応える中間管理を行っているのである。

その視点で家電メーカーを見ると、家電メーカーははたして「家電を作って」儲けているのであろうか。その殆どは以前からOEM生産であり、そのもとの要素ユニットやモジュールは多くの場合海外で生産されたもののアセンブルである。ここでも「家電メーカー」は「家電を使いたい」という消費者の要請に対して必要な技術をインテグレイトし、さらにそのメーカーのブランドという形での製品の保証、そして「製造者」責任をのせて応えているのである。このように、消費者が求める必要なモノを「モノづくり」で作って売る構造は、すでに大きく変化してしまっているのである。そして、消費者も「誰が造ったか」そのものではなく「誰がそれをインテグレイトし、その結果に責任を持つか」で選択して購入しているのである。

筆者は昨年の吉野氏のノーベル賞でも注目されたリチウムイオン二次電池について詳細なLCAを行ったが、そこで見えてきたものは、リチウムイオン二次電池を構成される素材の集合としてとらえたのでは、環境的にも経済的にもリチウムイオン二次電池の本質をとらえることはできないということであった。

往々に図の上部のように「モノがアセンブルされて製品になる」というようにとらえられ、そこでは「モノ」=materialである。しかし、実際は、製品としてアセンブルされる要素としての機能化素材の特性獲得のための調整段階に多大なエネルギーを注いでいる。そこで製品として組み立てられるアセンブル要素はモノではあっても物質ではなく技術の集約体である。つまり現在においてもモノを売っているように見えているものの本質は集約された技術を売っているわけである。たとえばリチウムイオン二次電池のセパレータはポリエチレンを用いているものが多い、しかしそのポリエチレンはレジ袋のポリエチレンとは異なり、強度、安定性、多孔化などの様々な技術が盛り込まれている。それを提供することを高機能ポリエチレンを提供しているとみるか、ポリエチレンという素材を媒体にして高機能化技術を提供しているととらえるかである。モノづくりの「モノ」は単なる物質や材料ではなく、それらを媒体として技術を提供している。すなわち「モノづくり」産業の代表的な素材産業においても、そこから提供されているものは、もはや「モノ」ではなく技術なのである。

サーキュラー・エコノミーへのトランジションとは

このように見てくると、「モノ」から「コト」への転換ということは、いまから作り上げることではなく、もうすでに起きていることなのである。問題は「モノ」から「コト」が起きているのにもかかわらず、「モノ」の売り切りとしてビジネスを捉えてしまう従来からの発想をいかに脱却できるかということであり、その視点に立つと見えてくるビジネスの強めるべき新たな方向性をつかみうるかということである。すなわち、サーキュラー・エコノミーへのトランジションとは、ビジネスモデルを変えることではなく、既に現実では変わっているビジネスを従来型のモデルから卒業して、新たなモデルでとらえなおし、そこから浮き彫りになる従来の「物の売り切り」モデルでは見いだせなかった価値創造を拡張することにある。それを、モノづくり業、ブランド製品業、リサイクル業について、まとめてみたのが次の図である。

例えば、リサイクル業においては、いわゆる「無価値」のものから「有価」なものを取り出して販売するビジネスとしてではなく、資源効率を向上させる循環サービスを提供しているということになる。そこでは、次の図のような多様なサービスの展開が考えられるし、すでにそれを実施している事業者も多い。なお、下図でRはリサイクラー、Sは社会を意味している。

CEのゼネラル・コントラクター

また、サーキュラー・エコノミーの展開を推進するフラットフォーム形成業はGAFAのような巨大IT産業ばかりとは言えない。プラットフォームという場を提供しそこに集まるプレイヤーを待つだけでなく、プレイヤーの掘り起こしや連携を進めていき、ネゴシエイトをしながら多様なプレイヤーが参加したチームを作っていく、実際にサーキュラーエコノミー的なビジネスを形成していくには、プラットフォームの運営のコアとなる部分を分野横断的に形成していく能力が求められる。

そのような動きは実は前世紀の後半には存在していたのではないか。それはSogoshosha(総合商社)でありZenekon(ゼネコン: general contractor)、これらが前世紀の発想の限界から抜け出し、ゼネコンはまさにgeneral contractorとして国土建設の枠を超え、国際的な循環設計のソリューションに向けたコントラクターへと、総合商社は物品としての流通からサービス流通へとシフトしていくことで従来の強みを生かしつつ、経済のサーキュラー・エコノミー化をリードしていくことかできるのではないだろうか。また、一見「モノ」離れで窮地に落ちむと予想されている素材産業などこそ、物質の製造と一過的な提供から物質の循環管理へとその力を発揮することで、新たなサーキュラー・エコノミーの担い手になりうる。さらに、コンサルタント系の会社は、単なる企画、提案のレベルを超えてソリューションに向けたフォーメーションづくり、プラットフォームづくりに踏み出すことで、サーキュラー・エコノミーを先導していく立場に立つことができるだろう。

なによりも、サーキュラー・エコノミーを、今までになかった新しい要素としてとらえるのではなく、今起きている変化を的確にとらえる視点として取り入れていくことが重要である。そうしてみていけば、実はこれまでの取り組みの中に多くのサーキュラー・エコノミーのプロトタイプがあるのではないだろうか。そしてまた、これまではモノの販売に付随する要素とみられていたサービス部分こそが、実はB2BやB2Cの中で本質的な要素であったことが見いだされ、そこからビジネスのシフトにつながるのではないだろうか。

文責 原田幸明

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