2020年6月5日
「欧州グリーンディールとは何なのか?~その進捗とサーキュラーエコノミー~」 (故)* 中石和良氏
(*:2023年7月に逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。) サーキュラーエコノミージャパン 代表
事務局からのお知らせ
以下に中石和良氏のご経歴をご紹介いたします。
中石 和良(なかいし・かずひこ=元サーキュラーエコノミー・ジャパン代表) 松下電器産業(現パナソニック)や富士通・富士電機関連企業等で経理財務・経営企画 業務に携わった後、起業。
日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラーエコノミー」の第一人者とし て認知拡大と移行に努めた。
大企業(上場企業含む)・中堅・中小企業まで幅広くサーキュラーエコノミー事業戦 略・ビジネスモデルの構築を支援。
各種企業、団体に向けたセミナーや講演、コンサルティングなどを行った。 著書に『サーキュラー・エコノミー. 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)が ある。
2023年7月28日、神経膠芽腫(グリオーマ)により死去、65歳。
皆さんおはようございます、サーキュラーエコノミージャパン、中石でございま す。
今日、テーマが、ちょっと若干変わっています。
「欧州グリーンディールとは何か?」は一緒なのですが、その後ですね、 「~日本の産業戦略を考える~」ということで、ちょっと視点を変えています。 これはなぜかというと、談論風爽の元々の今回のテーマは、
”アフターコロナの持続可能なビジネスモデル”、ということだったので、そちら にちょっと焦点を当てたような展開に変更しましたので、このテーマでお話したい と思います。
よろしくお願いいたします。
先日、(2020年)5月27日に、欧州連合から、明確な〈リカバリープラン〉が発表さ れています。
「欧州委員会」から、「欧州理事会」と「欧州議会」に対しての提案なのですね。
具体的な〈リカバリープラン〉を出してきて、これを受けて、6月の11日に「欧州理 事会」、「サミット」ですね、そこで決定されるという段取りですけれども、
もう基本的に、今回の〈リカバリープラン〉というのは、
ここに原則があるのですが、
当然ながら、
1.「感染症の拡大をいかに抑制して、今後の感染症発生に対してどうレジリエン トな社会を作っていくか」、
いうところが第一義的なのですけど、
2番目には、
2.「短期的な経済インパクトの軽減」
というところ。このポイントが2番目。
3番目が、当然ながら、
3.「長期的な産業構造の変化をどう起こすか」
というふうな三層構造で、今回のリカバリープランができているのですね。 実は、今回、この三つの三層ともですね、
「消費や投資を無差別に刺激する(景気)対策」というのは、ほぼないのすね。
一方で、欧州グリーンディールの枠組みで
「グリーンデジタルな欧州を作るための移行」ですね、
ここを加速するためにこのリカバリープランを採用させよう、という意図が、もう 明確に出てきています。
少し《欧州グリーンディール》(*2)について振り返ってみたいと思うのですけ ども、
昨年(2019年)の12月11日に公表された欧州グリーンディールですね、そこでは明 確にロードマップを掲げてきてたのですけれども、
まずこれが欧州グリーンディールの目的です。
・2050年までに「温室効果ガス排出実質ゼロ」で、「経済成長」と「資源利用」は 切り離された。
・「近代的」で「資源効率の高い」、「世界的に競争力のある経済」を実現し、 ・EUを「公正で豊かな社会」に変えていくのだ、と、
これを2050年までの30年の長期ビジョンで書いているのですね。
具体的にはですね、このbrochureにあるような形で、
「目的」と、あとは、右側の方には、「特に重点とする(充填する?)産業セクタ ー」というのを明確にしています。
ここでちょっと注目してほしいのが、左側の資料の一番下に、
「93%」「93%」「79%」ってあるのですけども、
これは、「欧州市民がどれだけグリーンディールに対する期待をしているか」、と いうところを表していまして、
まず、「欧州市民は気候変動を深刻な問題として受け止めている人が93%もいる」、 と。
「少なくとも気候変動対策を93%の市民がやっている」。
そして、右側、「79%」というのは、「気候変動への取り組みがイノベーションをも たらすと認めている」ということで、
原則ですね、「欧州市民がこのグリーンディールを求めているのだ」という建てつ けになっていますね。
さあ、そしてですね、「欧州グリーンディールの全体像」を、一旦ちょっと整理し ながら、その進捗までを追う確認をしたいと思うのですけども、
まず、
3月10日、ここで、
1.『欧州のための新産業戦略』というのを打ち出してきています。 これがグリーンディール政策を実行するための核になる戦略なのですね。
具体的には、もう、『GREENとDIGITAL』、このツイントランジションを産業にどう 移行するか、ということで、
その中でも特に重要なセクターというか、ポイントとしては、「中小企業」
欧州には2500万社の中小企業があるので、ここが動かないといけないよね、という ところで、
・「中小企業戦略」
を出している、ということと、
あとは、中小企業が活動しやすいように、EUを「単一市場」、もう既に、まあ、単 一市場にはなっているのですけども、
”中小企業が活動するのに(その活動を)阻害する要因を、今回は全部外していこ う”、ということで、改めて、
・「単一市場戦略」
というのを明確に出してきています。
そして、先日5月20日に
『EU生物多様性』戦略っていうのを出してきています。
同時に同じ日に、
3.『フードシステム』戦略、これも『From Farm to Fork』(*3)という政策と いうことで、
フードシステム戦略というのを5月20日に出してきていて、
ここまでは、ほぼロードマップ通りの戦略発表なのですね。
これ以降、
4.『サステナブル&スマートモビリティ』戦略。
5番目に、
5.『スマートセクター』、『クリーンエネルギー』の戦略ですね。 6番目に、
6.『化学物質、汚染物質』の戦略
ということで、この六つが基本的な核になる戦略として、
これから、4番目以降は(2020年)夏以降になるのですけども、出てくる、というこ とで、
これが大体、”グリーンディールを実行するための全体戦略” なんですね。
一方で、”じゃあ、この戦略をベースにしてどうやってやるか”、ということなの ですけれども、
ここで〈サーキュラーエコノミー行動計画〉が出てくるのですね。 3月11日に
《新サーキュラーエコノミー行動計画》
というのが発表されまして、(*4)
基本的にはですね、
”あらゆるセクター・産業にサーキュラーエコノミーの原則を、これを適合してい くのだ”、という位置づけがこの《新サーキュラーエコノミー行動計画》なのです ね。
こういうふうな見方をしていくとすごく整理がしやすいと思うのですね。 これを、じゃあ、実現するために、
《欧州気候法》
という気候に関する法律を、今、作ろうとしています。
3月に、「欧州委員会」から「欧州議会」に対して提案が先述されているのですね。 同時に
《CLIMATE PACT》(*5)
ということで、「市民を巻き込んだ協定」ですね、
これが同じく、同じ日に、
「パブリックコンサルテーション」がスタートする。(*6)
6月7日までの締め切りで今動いているのですけども、
”枠組みをまず作ってしまおう”、ということですね。
あと一方で、
投資計画ということで、
1月に発表された『欧州グリーンディール投資計画』があるんですけども、ここから コロナが起こって、若干の変更が生まれてきていて、
今回のバジェット(予算、経費)の
《リカバリープラン》が出てきます。
大きく二つの構成なのですね、
『NEXT GENERATION EU』(*7)という、もうこれ、「新しい資金調達と取り組 み」です。
それと、来年の21年から27年までのMFF(*8)です。
こちらを《リカバリープラン》に全部置き換えた形で進めようとしていました。
まさに、「《リカバリープラン》と《欧州グリーンディール》、これをもう一体化 することで、移行を加速化しよう」、という動きが明確になってきています。
では、そして、ここから最後のページが次なのですけど、今日はここが本題なんで す。
これ飛ばしますね、今申し上げたことを、「欧州はこういうことをやろうとしてい るのだ」、ということを、ちょっとまとめてみましたけども、
「政治のやる気」と、「経済の腕力」と、「文化の柔軟性」ですね、
今回、この明確な意向を生み出しているのかな、というふうに個人的には思ってい ます。
はい。そして最後ですね。
『世界の産業構造』、まあ、「階層」なんですけれども、これを大雑把に整理しま した。
まず、[資源]の階層ですね、これは「中東アフリカ等を中心とした資源国」、 この産業が一つ一番下の階層になります。
2番目に、[工業]の階層ですね。
ここは今、もう「中国」が世界的なリーダーシップをとって、
”世界の工場”と言われるぐらいで、工業のこの階層はですね、中国が今もう支配 しています。
その上の階層として、[情報産業]ですね。
ここが今、中国の「BATH」とアメリカの「GAFAM」ですね、この二大勢力が、今、し のぎを削って覇権を争っている、という状況で、見ていただいたらわかるように、 今、中国とアメリカが世界の経済産業のリーダーシップをとっている、ということ です。
ここに対して、”欧州はどういうポジションを取ろうか”、というのが、今回の 《グリーンディール》なのですよね。
まさに彼らは、この三層の上に層を作ろうとしているのですよね。 ここが[倫理]の《法》なのですね。
まさに、《パリ協定》、《SDGs》、《PRI》であったり、
あと、情報であれば《GDPR》(*9)と、「一般データ規則」を作ってきたりと か、これをもう、世界の標準にしていく、ということで、
[倫理感]と[法]で、下の三つの階層を統括できたらな、ということで、 まさに、これが、《欧州グリーンディール政策》なのですよね。 そういう見方を僕はしています。
それで、一点だけちょっと注意したいのが、
アメリカの〈BIOECONOMY〉(*10)という、ちょっと産業の取り組みがあって、
こちらはあまり聞こえてはきてないのですけども、今のトランプ政権、連邦政府自 体が、この〈BIOECONOMY〉に対して莫大な投資をかけてるのですね。
アメリカでは、今、この分野において、様々なスタートアップ中小企業が新しいイ ノベーションを起こし始めている、と、
こういう現状です。
今日の話題提案は、
”じゃあ、この全体勢力図の中で、日本はどこに行くべきなのか?” 中国、アメリカ、EUがこのポジションを取りに行っている、というところで、
”じゃあ、次に日本の戦略、産業戦略はどうすべきか”、というところが、今日ち ょっと議論できたらと思っての話題提供です。
(*1)リカバリープラン
Recovery plan for Europe

Recovery plan for Europe in response to the COVID-19 pandemic: Recovery and Resilience Facility and Technical Support Instrument
〈Europian Union〉
【EU】欧州委、220兆円経済復興予算案発表。グリーンリカバリーとデジタル柱。EU 債発行も
https://sustainablejapan.jp/2020/05/28/eu-recovery-plan/50076 〈Sustainable Japan〉
(*2)欧州グリーンディール
欧州グリーンディール
https://www.eeas.europa.eu/delegations/japan/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E3%82%B0%E 3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB_ja?s=169 〈駐日欧州連合代表部〉
(*3)From Farm to Fork
EU理事会、持続可能な食料システム確立に向けた「農場から食卓へ」戦略を採択 19.10.2020
https://www.eeas.europa.eu/delegations/japan/eu%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A% E3%80%81%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AA%E9%A3%9F%E6%96%99%E3% 82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E7%A2%BA%E7%AB%8B%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81% 91%E3%81%9F%E3%80%8C%E8%BE%B2%E5%A0%B4%E3%81%8B%E3%82%89%E9%A3%9F%E5%8D%93% E3%81%B8%E3%80%8D%E6%88%A6%E7%95%A5%E3%82%92%E6%8E%A1%E6%8A%9E
〈EU諸機関ウェブサイト〉
EUの新しい食品産業政策「Farm To Fork戦略」を読み解く
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/a718804066114a95.html 〈JETRO〉
「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」にみるEUの有機農業拡大に向けた課題と 今後の展開の方向性
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/pickup/2021/21_01.html 〈農林水産政策研究所〉
(*4)新サーキュラーエコノミー行動計画
欧州委、新たな循環型経済行動計画を発表
(EU)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/5ba822c725506e14.html 〈JETRO〉
新循環経済行動計画 -よりクリーンかつ競争力の高い欧州へ 概説
〈IGES〉
(*5)CLIMATE PACT
The European Climate Pact: empowering citizens to shape a greener Europe
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_2323 〈european commission〉
【欧州】EU、市民参加型の欧州気候協定キャンペーンを開始。市民の気候変動アク ションをシェア
https://sustainablejapan.jp/2020/12/23/european-climate-pact/57191 〈Sustainable Japan〉
(*6)パブリック コンサルテーション
欧州委員会、欧州気候法案を提示し、欧州気候協約への意見公募を開始
https://www.eeas.europa.eu/delegations/japan/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E5%A7%94%E 5%93%A1%E4%BC%9A%E3%80%81%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E6%B0%97%E5%80%99%E6%B3%95%E6%A 1%88%E3%82%92%E6%8F%90%E7%A4%BA%E3%81%97%E3%80%81%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E6%B0%9 7%E5%80%99%E5%8D%94%E7%B4%84%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%84%8F%E8%A6%8B%E5%85%AC%E 5%8B%9F%E3%82%92%E9%96%8B%E5%A7%8B_ja?s=169
参考記事
欧州委員会、欧州気候法案を提示し、欧州気候協約への意見公募を開始
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_335 〈european commission〉
(*7)NEXT GENERATION EU
NextGenerationEU

〈Europian Union〉
次世代のEU基金―欧州の経済復興計画
https://iccj.or.jp/ja/%E6%AC%A1%E4%B8%96%E4%BB%A3%E3%81%AEeu%E5%9F%BA%E9%8 7%91%E2%80%95%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%BE%A9%E8%88%8 8%E8%A8%88%E7%94%BB/
〈在日イタリア商工会議所〉
(*8)MFF複数年度財政枠組み
Multiannual financial framework
https://www.europarl.europa.eu/factsheets/en/sheet/29/multiannual-financial -framework
〈Europian Parliament〉
2021~2027年中期予算計画とその背景を読み解く(EU)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/874b61dfcf80663b.html 〈JETRO〉
EUの新型コロナ禍からの復興を支える大規模な財政支出計画

〈EU MAG〉
(*9)GDPR
EU 一般データ保護規則(GDPR)について
〈JETRO〉
GDPR(EU一般データ保護規則)とは?
日本企業が対応すべきポイントを考える
https://www.hitachi-solutions.co.jp/hibun/sp/column/leakage/03.html 〈株式会社 日立ソリューションズ〉
(*10)BIOECONOMY
バイオエコノミーとは・意味

〈IDEAS FOR GOOD〉
Bioeconomy 2020 – Everything You Need to Know!
https://www.energy.gov/eere/bioenergy/articles/bioeconomy-2020-everythi ng-you-need-know
〈Bioenergy Technologies Office〉
コメント