「Future Design 持続可能な自然と社会を将来世代に引き継ぐために」 西條辰義氏 2020 6/3

コラム紹介

西條辰義氏(総合地球環境学研究所 高知工科大学フューチャー・デザイン研究所、東京財団研究所)

今日はフューチャーデザインについてお話しします。西條と申します。

これは、いろんなものが、20世紀の半ば頃から、大いに増えてしまっているというお話です。

例えば、コロナと関係するんですが「お金を払って旅行している方々の(移動)キロ数」が、”14年ごとで倍増している”というお話です。こういう話は、「超加速」と呼ばれています。
ステフェン(Steffen)(*1)達が、”ものすごい勢いで、いろんなものが増えている”のです。
こういう話の背後には、

「二酸化炭素の排出」が、ちょうど20世紀の半ば頃から急激に増えている、ということと対応しています。

更には、”いろんなところで、どうも、地球の限界を超え始めている”、というお話が、「地球の限界」で、「プラネタリーバウンダリー」と呼ばれています。
それで、私達は、”なんでこうなってしまったのか”ということを、人間の特性に帰って考えてみたいのです。

サポルスキー(Robert Sapolsky)(*2)さんが、”私たちはどうも、3つの大きな特性を持っているんだ”、という話をしています。

『社会性』
一つ目は『社会性』であって、私達、大して肉体的能力はないんだけれども、上手に連携を取ることで、食物連鎖のピラミッドの頂点にいるんだ、ということです。こういう見方はどちらかというと、若干、話逸れますが、西洋的な見方です。「人類VS非人類」ということで、フランシス・ベーコン的な見方です。つまり、人類が非人類を制覇するという見方です。
一方で、これからは「山も川も海も動物も植物も同じ立ち位置にある」という”対等なサイエンス”を始めないといけないんじゃないでしょうか?

『相対性』
さて2つ目はですね、(パン!と手を叩く音)聞こえたかな?
私たちは、急に大きな音がすると、反応してしまいます。また、急に暗くなったりすると、反応します。どうも私たちは、「絶対量」じゃなくて、「その変化」に反応するのです。
これを裏返してみれば、評価関数を微分してゼロになるところ、つまり、一番いいところにいようとしているのです。この意味で、『相対性』は「最適性」の原理です。

『近視性』
3つ目は、私たちは、目の前に美味しい食べ物があったら食べてしまうんです。
サポルスキーによると、ヒトは、こういう3つの性質を持っているのです。

今度は将来について時間軸を伸ばしたらどうなるのでしょうか。
これが『楽観性』です。将来を、どうも私達は楽観的に考えるように進化した可能性があるようです。
こういう性質を持った私たちが、

社会の仕組みを作るのだけれども、その大きな柱が、「Market」 と「Democracy」ですね。
「Market」を考えてみると、将来世代、今のマーケットに居ないんで、彼らは、お金の使いようがないんです。つまり、マーケットという仕組みは、将来を考える仕組みではないんです。
「Democracy」だって、今の人々をエンターテインする仕組みであって、たとえば、原田先生が今度、東京都知事選に出てですね、”化石燃料系の乗り物は禁止する!”みたいな話をすると言ったら、多分当選しないでしょう。

更には産業革命〈Industrial Revolution〉を経て、いろんなイノベーションを起こして来たんだけれども、その背後で使ってきたのが「化石燃料」です。
こういう、社会の仕組みを作ってしまうと、どうも、社会の仕組みが我々の性質も変えてしまうのです。将来のことを考慮に入れない市場や民主制という仕組みを使うと社会性は凹み、残りの3つが膨らんでしまうのではないのでしょうか。
私たちの性質が変わってしまうと、今度は、社会の制度にフォードバックがかかります。つまり、マーケットやデモクラシーも変わるのです。
例えばマーケットは、”グローバルなマーケット”をめざすことになります。”地球の裏側からモノを買えないのが当たり前”の世界をめざすのです。
イノベーションについても、私たちは「ちょっとでも楽になるもの」をめざすのです。どうも私たち、「際限性のない成長」を目指して来たんじゃないのでしょうか。これが、私の見方です。そのため、このようなフィードバックを、なんとか変えたいのです。

フューチャー・デザインの基本的な概念として「将来可能性」を提唱しています。直感的に言うと、”食物がタイトなとき、親が自分の食べる食べ物を減らし、それを子供に与えることによって、親は喜びを感じる”のではないのでしょうか。これを、血縁関係のない将来世代まで伸ばせないのか、というのが『将来可能性』です。
”今の利得が減るとしても、これが将来世代を豊かにするのだったら、その意思決定、行動、更には、そのように考えることそのものが、私たちを幸せにするんだという性質”と定義しています。
この「『将来可能性』を活性化する社会の仕組みのデザイン」と、「その実践」のことを、私達は〈フューチャー・デザイン〉と呼んでいます。一方で、そんな性質を私たち持っているのだろうかと疑問に思うかもしれません。
うちの研究所の同僚の青木さんという方が、次のような発見をしています。頭の中の前頭葉からディープな部分にかけて「報酬系」があります。”損得を図る部分”です。青木さんが発見したことは、ほぼ同じ場所とネットワークで「規範的価値」を評価しているのです。
ちょうどアダムスミスの「諸国民の富」と「道徳情操論」に対応しています。これを二つの車輪にたとえるなら、現代の経済学は「道徳情操論」の車輪をはずし、「諸国民の富」という一輪車になっているのです。
そうだとするなら、「道徳情操論」に対応する「規範的価値」を活性化する仕組を作ろうではないのか、という立場です。

これを出発点に、いろんなことを始めました。理論を作り、それを実験で確認することを始めたのです。わかって来たことは「『将来可能性』をアクティベイトできるような、社会システムのデザインが可能である」ということです。
これを受けて、実践も始めています。こちらの方も、例えば、「『仮想将来世代』が有効に機能」することを発見し始めています。
実験をお見せする時間がないのですが、実例を1つ、2つお見せします。

最初に実施したのが、岩手県の矢巾町(やはばちょう)ですが、2015年度当時、内閣府が日本全国の市町に向かって、「2060年の将来プランを作りなさい」という課題を出したのですが、人口2万8千人くらいの矢巾町さんは、私どもと一緒にフューチャー・デザインを使ってそのプランを作ったのです。
左側は「現代から将来を考える」というグループです。2つのグループにやっていただきました。一方、右側は、黄色い法被を着てもらうと、「皆さーん、タイムマシーンに乗っかって2060年に行くんですよー。」「そこから今の矢巾町を考えて下さい」ということで、半年で6回やりました。そうすると、両者で話の中身が全然違いました。

現世代の方々はですね、今の問題を将来の問題に置き換えるんですよ。待機児童を減らす、老人の介護施設を増やす、さらには子供の医療費をタダにするという話をね、繰り返すんです。

一方、仮想将来世代の皆様方は結構独創的です。
矢巾町には南昌山というおむすびみたいな山がありますが、(今、水害で荒れていますが)この山のてっぺんに、宮沢賢治が登って、「銀河鉄道の夜」という美しい話を考えたんだ、ということを町の皆さん、ご存じです。そこで南昌山を賢治の自然公園に変えようとか、賢治の銀河鉄道をモチーフにした、交通体系を作ろう、とか、そんな話をなさいました。

これを見ていたのが、高橋町長さんなんです。両方のグループをご覧になり、彼は2018年の施政方針演説で「うちの町はフューチャー・デザイン・タウン」だと宣言なさいました。
それで去年の4月1日に、『未来戦略室』、つまり、将来から今を考えるという仕組みを作り、個々を中心に「総合計画」を〈フューチャー・デザイン〉で作ってしまったのです。

◉仮想将来人とのインタビュー 
フューチャー・デザインのセッションが終わって半年以上経った後に仮想将来人になった方々にインタビューをしました。

私たちは、「現代人としての私」と「仮想将来人としての私」が大げんかをしているのではないのかと思っていたんですが、

そうじゃなくって、両者を包み込む形で、高いところからえているんですよ。
更にこう言うんです、”仮想将来人として考えるのが、嬉しい”、という方もおられますし、”スーパーなんか行っても自然と「仮想将来人」として考える”、という方もいらっしゃいます。つまり、時間がたっても「将来可能性」が残っているという「頑健性」もあるようです。

今度は今から将来を考えることを見ましょう。
「今日、市役所に行ったら、将来のことを考えろと言われたので、まあ考えてみた」全然、構造が違っているんですね。

京都府の宇治市の実践を紹介しましょう。京都市のすぐ南側にある18万人くらいの市です。132箇所の集会場があり、かなり古くなって、壊さないといけない、ということで、住民たちと市当局が大げんかしているんです。
そこでこれだけではなく、広めのテーマでワークショップを開催しました。今回の場合は、同じ方が「現代から将来を見る」場合と「将来から現代を見る」場合の両方を実施しました。
現代から将来を見る場合、各班4人1組の班ですが、各班で近視眼的な強い意見を持つ方々が議論を支配したのです。
一ヶ月後、今度は、仮想将来人になって現在を考えてもらうと、強い意見を持つ方々の発言が後退し、彼らが笑顔になったんですね。彼らは、将来から今をみると、自分たちの意見があまりにも近視眼的すぎることに気づいたのです。将来からの提案ですが、その一つが「うちの校区でも人口が減って、学校に空き教室ができているのだから、そこを使おうよ」というもののありました。

フューチャー・デザインのセッションには32名の皆さんが参加したのですが、このうち、25名程度の方々、市民団体「フューチャーデザイン宇治」というのを作って、市役所と共に政策の提案に参画するようになったのです。

去年の11月に、私は宇治市のシンポジウムに参加したのですが、ここでは、二つの話を紹介しましょう。
上島さんは、一級建築士の方ですが、これまでは、注文者に応じてお家を設計して来ましたが、私たちのセッションに参加した後で、「お家とその地域の調和」、しかも「将来から見た調和」という視点で設計をしてみると、設計することそのものが、従来に比べて格段に楽しくなったという話をなさいました。
もう一人の方、瀬戸さんの場合、お子さんが不登校で、学校に行かないんです。セッションの中で、「将来インターネットで教育するんだ」という発言をなさった方がいたのです。まさに今そのようなことが起こっているんですが、彼女は「不登校という概念がなくなる」、ということに気づいたのです。それで、心が楽になり、なんとPTAの会長さんに立候補なさり、当選し、今、会長さんです。

これが彼女の会長に就任なさったときの挨拶文なんですが、「30年後の未来を考えるんだ」とか、「学校のあり方は変わるんだけれども、大切にしたいことは変わらないんだ」というお話をなさっています。

このように「考え方、生き方の変化」が起こっているのです。
宇治市では、職員研修でも私たちのフューチャー・デザインを使い始めてくれています。

fMRIを用いた研究も開始しています。
心の理論で重要な役割を果たすところらしいんですが、右側のtemporoparietal junction(*3)、「rTPJ」がどうも、将来可能性の窓口であるというがわかり始めています。
はい、以上です。

 

 

 
(*1)ステフェン(Steffen)
 
〈参考資料〉
 
フューチャー・デザインとは何か? 2019 年 10 月 25 日
⻄條⾠義
 
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/14903/miraitoshir011025-2.pdf
 
Covid-19 と社会のデザイン 総合地球環境学研究所・高知工科大学フューチャー・デザイン研究所 ⻄條⾠義
 
http://www.souken.kochi-tech.ac.jp/seido/wp/SDES-2020-13.pdf
 
(*2)Robert Sapolsky
 
Robert Morris Sapolsky
 
Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Sapolsky
 
 
 
(*3)temporoparietal junction
temporoparietal junction〈側頭頭頂接合部〉
Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%B4%E9%A0%AD%E9%A0%AD%E9%A0%82%E6%8E%A5%E5%90%88%E9%83%A8

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