鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター前センター長)
今日のお話はですね、ここに書いてある五つです。
・「チェルノブイリも含めて、どれぐらい原発があるか」という話がまず最初。
次に、
・「チェルノブイリとザポロジェ原発の攻撃の中身」を簡単にご説明しますが、
一言で言えば、
”今のところラッキーだった”、という、予想以上に危機一髪だった可能性がある。
核兵器ももちろん恐ろしい、核兵器は絶対使っちゃいけないんですが、
・「原発への攻撃」は放射性物質の量という意味では桁違いなのでやはり絶対してはいけない。
多い場合は、1000倍から1万倍になるので、その汚染の広さ、広がりも桁違いになります。
それから長い半減期のものが多いので、原発の場合には、影響の継続の時間、期間も核兵器よりも長くなります。
爆発とかそういうのはもちろん核爆発のほうが怖いですけども、環境に与える影響とか時間軸の影響という意味では桁違いの放射性物質が出る、
ということをちょっと今日お話したいと思います。
特に原子炉が止まってても使用済燃料のプール、これが一番怖い。
それから、日本にある再処理施設、これも非常に怖いという話をします。
「『軍事行動』はもちろん原子力規制の外」なんですけど、
実は「『核テロリズム』は、規制の中」に入ってるんです。
今回、私は、
”『核テロリズム』と『軍事行動』の境目をどう考えるか”、という点がなかなか難しい、
ということをお話したいと思います。
それから後半は
・「核兵器」の話で、
「ロシアが核兵器を使うかどうか」、という話と、
「”それに対抗して核兵器はやっぱり必要じゃないか”、というのに対しての私の意見」を簡単に説明したいと思います。
最後に時間がちょっとだけあれば、
・RECNA(*1)でやっている「北東アジアにおける核使用リスクについての可能性」についてのお話をしたいと思います。
これがチェルノブイリの原発で、15基。結構たくさんあるんですね。
ここは北と南にあるので、この両方からですね襲われてきて、このザポリージャとチェルノブイリが今回占拠されたと。
そして、まだ動いてるのが、南のザポリージャ原発、まだ一部動いてます。
このザポリージャ原発(ザポロジエになってますけど)が、欧州で最大の原子力サイト。
このように950万kWで、6基もあるんですね。
「6基の集中立地は世界でも最大級」って書いてありますが、柏崎刈羽が世界最大です。
7基で820万kW。
福島第1も、6基で470万kW。
欧州で次に大きいのは、フランスのグラブリーヌ原発で、90万kWが6基で540万kW。
これ、集中してるってことはですね、一つ炉心溶融を起こしちゃうと、全部がなかなか近寄れなくなってしまってですね、他の原発のコントロールができなくなってしまうので、
”連鎖的に炉心溶融が起きてしまう”、という恐れがありますので、「集中立地の怖さ」って、福島原発で大変感じました。
今回この950万kW級のものが6基もあるところで攻撃が行われました。
幸いですね、報道では、”訓練センターが火事になった”、というだけだったんですけど、アメリカのテレビ局(公共放送ラジオ、テレビ)、NPR(*2)がお金を出してビデオを分析していました。
そのビデオ分析の結果が、もう3月11日に出てるんですけども、これ見ると、この訓練センターだけではなくて、ここに監視カメラがあるんですけど、この監視カメラを見ると、送電線もやられてるし、ここに廊下があるんですが廊下もやられてるし、怖いのは、この1号機と6号機に弾がぶつかってる。
幸い、損傷はなかったんですけども、あの肩に担ぐランチャー(*3)ですね、これを持ってこられるとですね、それでもですね、2mぐらいの壁は貫通できるって言われています。
格納容器って大体1mから2mの間ぐらいの厚さなので、やられてしまう可能性がある。
ただ原子炉の格納容器って普通のコンクリートや鉄筋コンクリートよりも強固。強化はされてますので、そう簡単には壊れないといわれていますが、集中してやられちゃうと、一発だけではなく、2発、3発とやられちゃうと、壊れる可能性がありますね。
今回は、幸いですね、ここで止まった、ということですね。
意図的なのかどうかはわからないんですけれど、戦争になると、弾がどこに行くかもわからないので、誤射とかそういうのもありますので、とにかく原子力発電所に攻撃はやめてほしい。
「占拠、軍事行動のリスク」
これさっき言いましたように、大量に核物質がありますので、いろんなことが考えられるんですね。
・安全システムは当然壊れる可能性もある。
・電源がなくなってしまうと監視能力もなくなってしまう(計器、測定器も、何が起きるかわからなくなってしまう)
・運転員が死んでしまったり、疲労で集中力が低下して事故になる可能性もある。
・火災もある。
それから、これ意外と今回報道されなかったんですが、
・保障措置がなくなってしまう、できなくなってしまうと、核物質の盗難とかそういうこともできてしまう。
もちろん一番怖いのはこれ
・(ミサイル・爆撃攻撃)ですけどね。
こういうのを考えると、
もう「軍事行動が起きますと、今の原子力の安全システムはほぼ無力」って言っていいと思います。
だから『軍事行動』は絶対しちゃいけないんですが、じゃあ、『核テロリズム』でここまで行かないか?、っていうと、ここは微妙なとこなんですよね。
ここを今回どう考えるかが非常に頭を悩ましてるところです。
『ジュネーブ条約(*4)第1追加議定書』っていうのに、
これは、「国際人道条約」なんですけども、”戦争になったときに、市民に被害を与えない”、っていう基本的な考え方でできてる条約なんですが、
そのときに危険な力を内蔵する工作物として、「ダム、堤防、原子力発電所」は攻撃してはならない、とされています。
この文章を見ると、
”その結果、文民たる住民の間に重大な損失をもたらすとき”、って書いてあるので、
ロシアは、
”いやいや、今回攻撃したけど、文民に、住民に重大な影響を与えなかったから、ジュネーブ条約違反じゃない”、
と言い張る可能性はゼロではない。
だけど我々からすると、もう、攻撃した時点で、たまたま今回は住民に被害がなかったかもしれないけど、今でもまだ占拠されてますからね、ザポリージャは。
もうそれだけで”アウト”だと、私は思います。
それで、大事なことは、この条約で禁止されている対象は「原子力発電所」だけなんです。
他の施設、さっき言った「核燃料が大量の貯蔵されている再処理工場」とか「使用済燃料のプール、貯蔵施設」とかですね、そういうのは入ってないので、これもまた問題ということなんです。
で、大量の放射性物質。ちょっとこれですね。
「セシウム137」が一番、半減期が長くて、一番問題なんですけど、
広島原爆と東京電力福島第1原発事故の量を比べると、これだけ、170倍
この半減期の長いのが、「原発から出てくる放射性物質」に多いんですね。
従って長期にわたって環境に影響を与える。
福島第1の場合には、「セシウム」は、あの原子炉に蓄積されていたものの約3%しか出てないんです、実際は。
チェルノブイリの約2割っていうことでチェルノブイリはこの5倍ぐらい出してるっていうことですね。
これはですね、私の知ってるカン・ジョンミンさんという韓国の原子力安全規制委員会の委員長やられた方なんですけど、こういうシミュレーションすぐやっています。
左手はですね、「ザポリージャ第1号機の仮想核事故」で、
去年もし事故が起きた場合の、その気候条件を当てはめて、被害をシミュレーションしたんですね。
一番上が「炉心溶融」、いわゆるメルトダウン。
真ん中が「使用済燃料プールがやられた場合」、こちらの方が圧倒的に被害が大きい。
一番下が「両方」。
そして、右手にあるのは、「日本の六ケ所再処理工場」
ここに3000tの使用済燃料が今入ってますので、これ、全部出たとしたら、この桁が全然違うんですよね、6470ペタベクレル(PBq)、いいですか、ペタベクレル(PBq)です。
この原子炉1基当たり大体400ペタベクレル(PBq)以下ですから、大体、10~15基分の放射性物質が六ケ所にはあるということです。。
これは2019年10月1日と、12月1日の当時の条件によるシミュレーションです。
”風向きによっては日本全土に放射性物質が拡散してしまう”
というグラフですね。
今のが原発のリスクの話です。いいですか?
これは、戦争でもちろん襲われる可能性についての話なんすけど、
”テロでも起こりうる”、ということですね。
核兵器の問題ですけど、
2月24日に侵攻が始まったんですが、もう翌日にRECNAとして
”危ない、これは大変だ!”、という趣旨の見解文を発表したものなんですけれど、
まず、核兵器が使用されるリスクが、当然戦争があると起こりうる、っていうことをまず心配しました。
それから、「ウクライナで15基ある」、ということで、このときに、もう既に、
戦争が起きると意図的でなくても、原発に爆弾が当たってしまう可能性はゼロではないので、これも心配だ、と。
それから、ウクライナを見て、
ウクライナは実は核兵器を冷戦直後ですね、旧ソ連の核兵器が4000発以上あったわけですが、これロシアのものなので、ロシアに返還ししたわけですけど、
そのときに、”返還しなきゃよかったじゃないか、核兵器があったらこんなことなかったんじゃないか!”、っていう、当然そういう考えの人たちが出てくる、と思いまして、
それを見てると、北朝鮮もイランも、”ああ、やっぱり核兵器があった方がいいな”、って思うかもしれない。これを心配しました。
それと、ロシアとアメリカが、一番『核軍縮』を一生懸命やらなければいけないんですけれども、「もう当分、ロシアとアメリカで核軍縮の交渉はできない」。
となると、この「核軍縮の見通しが全く立たなくなってしまった」、という恐ろしい事態になった。
そして、後でお話しますが、
ウクライナは「核兵器を返還する条件」として、この《ブタペスト(ブダペスト)覚書》(*5)ということで、
米・英・ロシアは”ウクライナに対して攻撃を加えない”、という約束をしてたわけですね。これが、今回破られてしまった、ということですね。
これが《ブタペスト(ブダペスト)覚書》なんですけど、当時、’92年の段階でウクライナには4000発ぐらいの核兵器があったと言われています。
ただですね、これは”ロシアの所有物”だったので、彼らがすぐにそれを使えるわけでもないですし、訓練もしてないですし、
ロシアは当然、”返せ”、と言ってきたわけですが、その場合に、ウクライナの国内ではいろんな議論があったんですけれど、まあ、返すしかないんですけど、だったら交渉で、”攻撃されないようにしましょう”、ということで、
”我々は核兵器を全部諦めますから、《NPT(核兵器不拡散条約)》(*6)に入りますので、NPTに入る条件として、この
・「独立」「主権」「国境の尊重」
・脅威や武力行使を控える
・侵略された場合には、国連安全保障理事会に行動を依頼する
・核兵器の使用を控える”
これが《ブタペスト(ブダペスト)覚書》ではっきり書かれています。
ところがですね、『覚書』なので、『条約』じゃありません。
国際的な、「法的拘束力」があるかないか、って、微妙な解釈ですけども、
明らかに、”覚書違反”。
残念ながら、ここにはですね、
米・英は、ロシアに対して、”違反だから”、といって軍事行動を起こす、ということは書かれていないので、
それを破った場合でも、”誰も守ってくれない”、という、その辺が《ブタペスト(ブダペスト)覚書》の一番難しかった点ですね。
そして、
”NATOの「核共有」のようなものを日本もやったらどうか”、
という議論があってですね、これ、歴史的にちょっと「核共有」について簡単にご説明しますと、
《NPT(核兵器不拡散条約)》ができる前、冷戦が始まった頃、
’50年代、’60年代に、米と旧ソ連が対立してて、
ロシアがすごい核戦力を拡大し始めてきていてですね、ヨーロッパが、”危ない”、ということで、アメリカが「中距離の核」をですね、置こうとしたわけです。
これに対して、ロシアとアメリカの間で交渉があってですね、
NPTは、「非核兵器国に核兵器を渡してはいけない」という条約を作ろうとしたわけですから、
”NPT違反にならないような形で、アメリカとロシアが両方が納得できるやり方をしましょう”、ということになったときに、
『核の傘』で同盟国を守りたい、っていうアメリカに対して、
”西ドイツは核武装しない方がいいよね”、っていうことは、両方で納得したんですね。
”西ドイツが核武装しないためには、西ドイツが満足いくような方法で、核兵器の配備の仕方を考えよう”、というので、できたのがこの「核共有」で、
結局、「置くんだけど、『所有権はアメリカ』西ドイツは勝手には使えない」。
西ドイツ側も、アメリカが勝手に核戦争し始めてしまったら困るので、
「必ず協議をして」ですね、「両方が合意のときにしか核兵器は使わない」。
その代わり、実際に使うときは「爆撃機だけ」です。「ミサイルは使わない」。
爆撃機で爆撃するっていう方法、爆撃機で来る場合には、割と落としやすので、ソ連側としては、”それならばいいでしょう”、ということになった。
(*7)〈参考〉核兵器運搬手段
そういう核共有なのでちょっと今の日本には全く当てはまらない。
もし日本がこういうことやろうとすると、おそらく
”NPT違反”にもなりますし、
核兵器の配備は逆に
”ターゲットになってしまう”ので、リスクはかえって高まる。
今の「核の傘」を信じてないっていうふうに、思われてしまいますので、アメリカとしては多分、すごい警戒することになるので、多分これは実現しないと思います。
で、”ロシアは核兵器を使うか?”
残念ながら可能性は排除できない。というのはロシアの最新の『核戦略』が2020年に出てるんですけど、
”ロシア連邦の存在自体が危ぶまれるような脅威に対しては、通常兵器による攻撃であっても核兵器で対応する”
というのが、書かれています。
で、重要なのはこの「エスカレーション抑止(escalate to de-escalate)」と言っているものですが、
”戦争を拡大しないために、低出力の核兵器を一発使えば、相手はそこで戦争をやめるだろう”
という考え方ですね。
これは非常に危険。
”こちらが核兵器を使った場合に、それに怖気づいて、相手は核兵器を使わない”、っていう前提になっているんですが、それはわからないです、やってみないと。
これが拡大核戦争に繋がる可能性がある、っていうことですね。
そして、プーチンはもう既にこういうことを言ってるので、”ドクトリン”[核戦略理論](*8)
としてはいつでも使う可能性があるということですね。
これはBBCニュースの引用ですけども、BBCのモスクワ特派員が、”まさかここまでやんないだろう”、と思ったことをロシアはやっちゃったんで、”もうあとは保証はできない”、みたいな記事が出てましたね。ちょっと引用をさせていただきました。
最後にちょっとだけ、このウクライナの危機が起こる前に、実は我々で、
「北東アジアで核兵器が使われる可能性についてきちっと研究しましょう」っていうプロジェクトを始めて、それを
「どういう状況になれば核兵器は使われるかもしれないか?」
ってことを知らないと核兵器の使用を防ぐことは難しいかもしれない、という考え方で、始めたんですね。
『三年計画』で始めてるんですけれども、
この1年間の成果としては、
〈起こりうる、十分起こりうる核兵器使用のケース〉
っていうのを25個集めて、それで発表しました。
このような、
「『計画的』なのか、『偶発的』なのか」、
「『大規模な軍事施設をターゲットととするのか』、『都市部をターゲットとするのか』」
等、いろんなケースを考え、
そして、このように、分類してみました。
これらのケースに基づき、暫定的な〈リスク削減の提言〉を作ったんですけども、
”「意図せざる使用」って結構ありうる”、っていうことですね。
・常に、「誤解をしないようにコミュニケーションが大事」
今回、ウクライナのケースで言えば、
ウクライナとロシアの話はまだやってはいるかもしれませんが、
アメリカとロシアは全くやってない可能性が高いので、これ、困ったものなんですね。
”誤解”によって戦争が始まってしまう可能性がある。
・ひとりに頼らない。核兵器使用はひとりに頼らない。
ひとりの人間の決断で核兵器が使われてしまわないような、
「多重チェックの機能」とかですね、
「核兵器使用に関する監視強化」とかですね、
そして、もちろん
・「先制不使用(No-first-use)を宣言」することは非常に大事だということですね。
そういう話を言いました。
これで、以上です。
駆け足でしたけれども..ウクライナ問題についてのお話をさせていただきました。
ありがとうございました。
(*1)RECNA
〈長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)サイト〉
(*2)NPR (米国公共ラジオ放送)
〈Wikipedia〉
NPR
〈NPR サイト〉
(*3)ランチャー
〈Wikipedia〉
(*4)ジュネーブ条約
ジュネーヴ諸条約及び追加議定書
〈外務省 サイト〉
(*5)ブタペスト(ブダペスト)覚書
ブダペスト覚書
〈Wikipedia〉
(*6)NPT
核兵器不拡散条約(NPT)の概要
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/gaiyo.html
〈外務省 サイト〉
(*7)〈参考〉核兵器運搬手段
〈Wikipedia〉
(*8)ドクトリン
「ドクトリン」の意味とは?ソ連・アメリカやビジネスでの使い方も
〈TRANS.Biz サイト〉
コメント