2020年12月17日
「気候危機とカーボンプライシング」
後藤敏彦氏
サステナビリティ日本フォーラム代表理事
今日は、「気候危機とカーボンプライシング」ということで、
実際に、産業革命、産業科学革命以来の350年、
人類が700万年に出て、その2万分の1の時期に、この化石文明で気候危機をもたらしてきております。 という時間枠を、生命38億年の中で、ひょっとすると、人類の終焉に向かっている可能性がある、という状況です。
”ここ10年が勝負どころ”、というのは、前にもお話しました。
ご存知のように、〈Global Risks Report〉(*1)では、もう『気候問題』が、発生確率のトップ5、 ちなみに,
『covid感染症』は10番目のリスクで載っておりました。
これも、前もちょっとお話しましたけども、2030年にはヘタをすると、(1850₋1900年を基準として、温暖化が)1.5℃になる、と いうことなんですが、
実は、この12月2日に、〘WMO,世界気象機関〙(*2)が、〈Provisional report〉を出しまして、(*3) ”The global mean temperature, (平均気温)、2020年は「1.2° ± 0.1°」”という、 つまり、「もう既に1.2℃上がってしまった」、ということで、
2030年より前に、1.5℃に達してしまう可能性があるということが推定されます。
ご存知のように、前も話しましたけど、世界で《気候非常事態宣言》が相次いでおりまして、
・壱岐市が、私は白川市長に持ちかけて、昨年9月25日に議会で可決したんですが、
そのときで、世界で《気候非常事態宣言》発してるのは840ぐらいだったんですが、この1年間で1000近くが増えてるということで す。
ご存知のように、
・衆参両議院も《気候非常事態宣言》の決議を採択しました。
それから
・環境省が推奨してる〈ゼロカーボンシティ〉ですが、
12月3日現在で188自治体、域内人口 8600万人を超えました。つまり日本人の3分の2以上の人が住んでいる自治体が既に〈ゼロカ ーボンシティ〉を表明して、今続々と〈ゼロカーボンシティ〉の条例を作り始めているところです。
♢菅首相は10月26日に発表し、
♢大変結構だと思うんですが、ただし対策的には中身がほとんどなくて、 ”ここ10年が勝負”、と言われる割には、
2030年以降の、例えば〈CCS〉だとか〈CCUS〉だとか、そういった技術開発、〈カーボンリサイクリング〉ということを言ってる とことは、
”2050年、依然として化石を使っている”、という前提で発言しておりますが、
自治体の方が、そういう意味では、もう少し地に足のついた条例作りに動き出している、という感じであります。 ただですね、「首相がこういうものを表明した」ということは、非常に大きな意味がありまして、 皆さんご存知のように、
”日本製鉄(旧、新日本製鐵)が、2050年カーボンニュートラルを決断した”
みたいなのが、日経新聞のスクープで出ました。(*4)
昨日は、あるところで、サステナビリティ研修みたいなところで1時間半の講義をしたんですが、
そこに、日鉄の子会社の人がいて、”グループ内で衝撃が走った”、と言ってましたので、まあ、グループの人も知らなかったん でしょうが、これは大きいですね。
それで、私は今週の別のところのセミナーで、「ビジネスに対する、担当者に対するアドバイス」ということを言われましたの で、三つのことを言いました。
・もはや、日本企業は、「2050年までに〈カーボンニュートラル〉を表明する」ということを、ミドルの人はトップにちゃんと提 案すべきである、と。
それから、
・〈インターナルカーボンプライシング(ICP)〉(*5)というものをやはり入れることを、トップに進言すべきだ、というこ とと、
・既にもう、温度上昇が危険域にどんどん入ってきてるので、〈適応、アダプテーション〉(*6)について、直ちに担当者であ れば、取り掛かる用意をすべきだ、
という三つのことを言いました。
例えば、〈カーボンニュートラル〉を表明しない企業は、端的に言えば、
多分、若手社員が、”我が社はそういったことに取り組まない”、ということで、「今でも ”3年で3割辞める” と言われる若手 社員が、さらに流出するのではないか」という懸念を私は持っております。
また、
日本の2/3の人が住んでいる自治体が〈カーボンゼロシティー〉を表明してるのに、そこでビジネスをやるところが、〈2050年 カーボンニュートラル〉を表明しないということは、
”「そこの自治体の政策に協力しない」ということを表明するメッセージを送ってると同じことになるよ”、と、こういうような 話を最近はしているところであります。
皆さんご存知のように、12月11日に
・欧州は《Green Deal》を、発表したわけですが、(*7)
この中に書かれてることは、
・〈国境炭素税(carbon border adjustment mechanism(CBAM)〉(*8)
EUが気候に関する野心を高めるにつれて、世界中で野心レベルの違いが続く場合、欧州委員会は、「炭素リーケージ」(*9)の リスクを低減するため、
特定部門に対して、〈炭素国境調整メカニズム(carbon border adjustment mechanism(CBAM)〉を提案する、ということと、 それから、もう一つは、
・EUの〈排出量取引システム〉での「炭素リーケージ」のリスクに対処する代替手段になります。 というようなことが、《Green Deal》の中に書かれてるわけでして、
EUの、〈ETS(Emissions Trading System):EU排出量取引制度〉(*10)ですが、これIGESのレポートにあるんですが、(* 11)
「既に、45%が〈EU ETS〉の対象範囲によってカバーされている」ということで、これ、一時、「あんまり機能してない」とかい ろいろ言われてましたが、
2005年からやって、これ、欧州の中でかなり機能していて、さらに、今それを強化する、と、こういうことが《Green Deal》で謳 われてるわけです。
《Green Deal》で言ってる 〈Climate Law〉(*12)は、3月4日に、もうプロポーザルとして出されておりまして、こんな形 で、今議論をされております。
読んでみたんですけど、割と抽象的に書いてあって、
「こういう方向でいく」「こういう方向でいく」っていう、日本で言うと、もう〈基本法〉(*13)のような位置づけではない かと思われまして、
”その〈基本法〉に基づいた形で、いろんなことを、どんどん、どんどん、やっていく”、というような感じで書かれておりまし た。
もう一つ、〈EU Green Recovery〉についてですね、
欧州では7月の17、18、19、20、21と、集中議論をして、そこで結論をやっております。
それで、その中の2番目の、
♢〈Multiannual financial framework(MFF):多年度に渡るファイナンシャルフレームワーク〉(*14)として、
2021のfirst semester(前期)ということで、あと2週間後の2021年の上半期に、
proposals、
「〈 carbon border adjustment mechanism(CBAM):炭素国境調整メカニズム)〉 and on a〈 digital levy〉(*15)」と いうことで、
これは来年(2021年)の上半期に提案して、導入はですね、遅くとも2023年1月1日ですから、
多分、来年提案して、2022年から適用するんではないかな、と。
それから、合わせて、「〈ETS(Emissions Trading System):EU排出量取引制度〉の revise」、改定の proposal もやるんだ と、(*16)
こういう、もう具体的な作業の段階に全部入っております。
ご存知のように、今年の春に、EUは初めて「European Union」としてボンドを出す、日本円で約92兆円ですね、 ”それを〈Green〉と〈Digital〉でリカバリーをするんだ”、ということで、
92兆円を加盟各国に無償配布と有償配布でやるんですが、ボンドですから、”返さなくちゃいけない”、と、
その、「A clear roadmap towards new sources of revenue」 ということで、(*17)
収入、要するに、「Green Bondの borrowing を repay,返済するのを助けるための収入の新しいソースと」して入れてあるのが、 一番上が、
・「Carbon border adjustment mechanism(CBAM):炭素国境調整措置」です。
それから、
・「digital levy:デジタルの税金」、
それから、
「EU ETS:欧州連合域内排出量取引制度」ですね。
それから、
・「金融取引税」等々、
要するに返済の財源としてまで、もう既に組み込まれているわけであります。
中国は、実はまだ〈ETS〉進んでないんですが、ただこれはやるということを、習近平さんは2015年に打ち出してるんですね。 17年には発表されたんですが、まだ行われていない。
どうも、ここにあるように、なかなか、データの正確性や透明性を巡る懸念とか、いろんなことがあって、
ただですね、EUがそういうことになりますと、必ずや中国は中身がどういう形であれ、EU型の〈ETS〉をボンと入れると思いま す。
そうすると、EU型の〈ETS〉を入れれば、中国は貿易上、EUと同等ですから、「国境炭素税の対象にならない」という形になりま すと、極めて有利な立場になります。
それに対して、日本はですね、〈カーボンプライシング〉といっても、二つあるんですが、
♢〈排出量取引、ETS〉ですが、
これは東京都と埼玉県で実施しており、”大変効果あり”、との結果が出てるんですけれど、それ以外の都道府県も国も、全く今 のところ、実施はないし、発表もないが、議論はされています。
それから、
♢〈炭素税〉は、
日本もゼロではありません。289円とかって、なんか、300円弱の炭素税がかかってますが、先進諸国の炭素税は、大体、3000円、 4000円、5000円という形で、桁が一つ違います。
ということで、やはり菅元首相の『カーボンニュートラルを2050年までに』ということのためには、「技術イノベーション」と か、「脱炭素の動き」が必要で、
〈排出量取引〉〈炭素税〉ともに早急に必要だと思いますし、
さらに、EUと合わせて『2050年までにゼロ』と表明している国が、今100カ国以上ありますので、
そういったところが〈国境炭素税〉を、EUに真似て導入してくることは十分考えられますので、
日本もこの「カーボンプライシング」を入れなくちゃいけないわけですが、
多分、昨日の新聞で、「環境省が議論を再開」みたいなことがちらっと出ておりましたけども、
なかなか、日本は物が決まるのに時間がかかりますので、1年2年で本当に決まるかどうか、大変懸念されるところです。
そのためには企業は、〈インターナルカーボンプライシング〉を早急に入れて
〈国境炭素税〉にも備えなきゃいけないし、日本の国内で炭素税が入れば、それでもってちゃんとペイするようなビジネスモデル に、今のうちからやっていく必要があるわけです。
ちなみに、日立製作所は去年私説明会に行って聞いたんですけど、去年の9月に、”これから〈インターナルカーボンプライシン グ〉を導入します”、ということで、
”1t当たり5000円です”、ということを公表しておりました。
ということで、今日は、
カーボンプライシングのことをそれほど詳しいわけじゃないんですが、勉強するにはですね、
実は、令和元年に これ、
「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ、ということで〔環境省〕 それから、
「温室効果ガス排出削減のためのカーボンプライシング等の政策手法に関する調査」ということで、これは〔経産省〕ですが、こ っちは確か「300ページ以上もあるような分厚いもの」、
〔環境省〕は、「100ページ以下」だったと思いますが、こんなようなことが、今あります。
日本も菅元首相の「Very Good ,but」とは言いましたけど、例の影響で、今、企業の中で猛烈な動きが出てきておりますので、 この問題もまた別途、誰か、「カーボンプライシング」に詳しい人に話をしてもらって議論をしたいと思ってます。 とりあえずは、今日は話題提供ということで、以上でおしまいにします。
どうもありがとうございました。
(*1)第15回 グローバルリスク報告書 2020年版
https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Global_Risks_Report_2020_JP.pdf
〈WEF〉
(*2)
WMO
〈WMO サイト〉
世界気象機関
〈Wikipedia〉
(*3)WMO Provisional report 2020
State of the Global Climate 2020
〈WMO サイト〉
(*4)日本製鉄 2050年 カーボンニュートラル
「カーボンニュートラルビジョン2050」の推進https://www.nipponsteel.com/csr/env/warming/zerocarbon.html
(*5)インターナルカーボンプライシング(ICP)
インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要
https://www.env.go.jp/content/000045085.pdf
インターナル・カーボンプライシングについて
https://www.env.go.jp/council/06earth/shiryou3.pdf
〈環境省〉
ICP(インターナルカーボンプライシング)とは?なぜ導入する?

〈Blue .Green〉
(*6)アダプテーション
ADAPTATION アダプテーション 適応
気候危機をサバイバルするための100の戦略
https://adaptation-platform.nies.go.jp/ccca/publication/adaptation/index.html 〈気候変動適応情報プラットフォーム「A-PLAT」〉
地球沸騰化時代の適応策100選!
-ADAPTATION アダプテーション[適応]気候危機をサバイバルするための100の戦略-

〈国立環境研究所〉
(*7)Green Deal
The European Green Deal
Striving to be the first climate-neutral continent
https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en 〈 European Union〉
(*8)Carbon Border Adjustment Mechanism(CBAM)
Carbon Border Adjustment Mechanism
https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism_en 〈European Commission〉
Carbon Border Adjustment Mechan
〈 European Union〉
CBAMとは?概要や企業に求められる対応についてわかりやすく解説!
〈おしえて!アミタさん〉
(*9)「炭素リーケージ」
カーボンリーケージ(炭素リーケージ)とは・意味

〈IDEAS FOR GOOD〉
(*10)EU-ETS(European Union Emissions Trading System)
欧州連合域内排出量取引制度
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E9%80%A3%E5%90%88%E5%9F%9F%E5%86%85%E6%8E%92%E5%87%BA%E9%87%8F%E5%8 F%96%E5%BC%95%E5%88%B6%E5%BA%A6
wikipedia
世界で導入が進むカーボンプライシング(前編)炭素税、排出量取引制度の現状 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0401/946f663521dac9af.html JETRO
抜本改革迫る、EU ETS徹底解説
欧州排出量取引制度で対策強化、日本は26年本格開始
〈日経ESG〉
欧州域内排出量取引制度(EU-ETS)とは? 「排出量取引」の仕組みをわかりやすく解説

〈ビジネス+IT〉
(*11)IGESのレポート
欧州連合域内排出量取引制度の解説
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/workingpaper/jp/6739/EU-ETS%20working%20paper%20(032 2%20fanal%20rev2)%20.pdf
〈IGES〉
(*12)European climate law

https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/BRIE/2020/649385/EPRS_BRI(2020)649385_EN.pdf 〈European Commission〉
(*13)基本法
基本法
〈参議院法制局〉
基本法と個別法の性格について
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_26/pdf/s4.pdf 〈内閣府〉
基本法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E6%B3%95 〈Wikipedia〉
(*14)Multiannual financial framework(MFF)
https://www.europarl.europa.eu/factsheets/en/sheet/29/multiannual-financial-framework 〈 European Union〉
2021~2027年中期予算計画とその背景を読み解く
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/874b61dfcf80663b.html 〈JETRO〉
(*15)digital levy(デジタル賦課金)
経済のデジタル化に伴う 国際課税ルールの見直しと今後の課題
https://www.japantax.jp/mm/file_kokusai/siryou220411.pdf
〈経済産業省〉
EU、デジタル課税の推進先送りへ-国際課税ルール成立を優先

〈bloomberg〉
(*16)revised EU ETS
Adoption of the revised EU ETS Monitoring and Reporting Regulation
https://climate.ec.europa.eu/news-your-voice/news/adoption-revised-eu-ets-monitoring-and-reporting-regulation-20 24-09-25_en
〈European Commission〉
(*17)A clear roadmap towards new sources of revenue」 to help repay the borrowing Recovery plan for Europe
https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/recovery-plan-europe_en 〈European Commission〉
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