2020年12月8日 「カーボンニュートラルはどんなに難しいか―壱岐を例とした考察」
原田幸明氏〈物質・材料研究機構名誉研究員 サーキュラー・エコノミー&広域マルチバリュー循環研究会代表〉
皆さんもご存知のように、私は長崎県の壱岐の出身です。
壱岐っていうのはですね、日本で最初の「気候変動危機宣言」をやった地方自治体、ということです。
今日来ておられる後藤さんが、なんか、そそのかして市長にやらせた、っていう話もありますけど。(笑)
まあ、あと、富士ゼロックスさんとか、いろいろそういうところと取り組んでるみたいですね。
この前、山本先生(山本良一東京大学名誉教授 山本エコプロダクツ研究所長)が、
この気候変動危機の新しい会を立ち上げられまして、そこに行った時に、白川市長とも会ったわけで、
まあその時にですね、
”壱岐くらいだったらね、「気候危機宣言」もいいけど、「カーボンニュートラル宣言」をできるくらいまで目指したらどうなの?”
という話をしたんですよ。
で、まあ、言ったからには、ちょっと計算してみたんですよね。
どういうふうにやるんだろう、ということでですね。
そうすると、はっきり言って、
”壱岐みたいな離島で、自然の中にあって、人口も減っている所でも、かなり難しいよ”、ということがわかりました。
ちなみに、どういうところかと言いますと、
大体人口が、2万6千人。私が壱岐を出た時にはですね、5万人以上いたんですけどね。減っちゃいましたね・・そんなことはいいとして、
面積が、1万3千860ヘクタールでございまして、周りは玄界灘に囲まれている、ということでございます。
で、どのくらいCO2出しているかというと、データございまして、
大体、15万8千t/year、出している、と言うことですね。
それで、まず、どういう構成になっているかと言いますと、
CO2全体のうちですね、一番多いのはこの「運輸」ですね。運輸が6万2千トン、
あと「産業」「業務」「家庭」、ですね。
なんせ産業が基本的に、第一次産業が多いんで、CO2はそう多くない。
だから、そういう意味では”カーボンニュートラルしやすい基盤”にはあるわけですね。
工業がまあ、殆どないわけです。
で、業務で今一番大変なのは、「医療介護関係」ということになります。
こっちに書いてありますのが、その中で《電力依存度》です。
カーボンニュートラルを目指す限りですね、やはり「化石燃料からの脱却」ということになりますから、どのくらい電力が必要か?ということになっていますね。
そうすると、《電力依存度》が、だいたいこんなもんだ、ということになります。
で、その電力を、今どうやっているかと言いますと、
こちらに書いてありますけれども、
こちらが『石油火力』です。2つの発電所があります。
それで、
『風力』も導入しておりますし、
『太陽光』も二箇所入れております。
更に『リチウムイオン電池』もですね、一応、太陽光に賄うくらい、まあ、今のところ、入っております。
それで、こういった壱岐みたいなところがなぜ注目されるか?というと、
まあ、”自然の中にある”、ということでございます。
そうすると、「自然の吸収能力がどのくらいあるか」ということですけれども、
まあここに計算致しました。
ちょっと、この計算の仕方も後で示しますけれども、まあこんなもんでした。
大体、CO2吸収能力は年間4万トン弱くらいですね。
出しているのが16万トン、自然の中にあるようなところでも、CO2の吸収能力は4万トン。
2万人そこそことは言え、いかに人間の営みというものがですね、CO2を出すのが、自然の容量を何倍超えているか、っていうことが、よく理解できると思います。
ですからこれが東京とかですね、そんなところになったら、たまったもんじゃない数値ですよね。
じゃあ一応、「吸収」の数値ですけれども、
森林のCO2吸収ですけれども、
”森林は吸収しているからいいさ”、っていう議論は、最近はもう、許されなくなっております。
「炭素を隔離する森林能力の増加」、ということできちんと見ていかなくちゃいけない、と。
「土壌の質」、「土壌炭素」、それから、「生物多様性」、要するに生物ついて吸収されるものですね、
そういったものを満たしていって、だいたいですね、0.5t / Carbon くらいのもの、っていうのが『IPCC』から出されていますよ、と。
そうすると植林する場合、1.83トンのCO2と、
まあ、成長した植林や森林の、10年間の成長、収量曲線をきちっと開示して、
その森林を維持する場合、保林する場合にはどのくらいのものになるか、というものを、
まあ、出して行きましょう、というふうなことになっております。
日本は森林に関して割と甘いんですけれども、かなり厳しくなっています。
で、現実的に森林が成長すると、吸収する量は、途中は増えるわけなんですけれども、
年を取ってくると、人間と同じようにですね、吸収能力はなくなっていく、ということですね。
でこれ、だから、まず木に吸収されて、この下のこの二つです。
「リター」(*1)「土壌」、
「リター」っていうのは要するにまあ、”落ち葉”とか、いろいろとそういうところですね。
そういう形で土壌に還元され、準備をされるもので、最終的に土壌に吸収されるのは、この位になってくる。
だから木は切り倒された後、いろいろ、これ使われます。
化石燃料で燃えるものもあるわけで、
それからこれ、次、植林して成長して行く、そういうモデルなんですけれども、
だいたいこれで、言うなれば50年経って50t /ha、だいたい1t /ha/ year 位が、
まあ、目安という計算になるわけですね。
このようにやってくると、これで計算して行くと、先ほどのところに、これ、ありましたけれど、
だいたいですね 、これCO2換算ですから、3.6トンになりますと、これだけの、
計算でできるわけです。
その次に農地ですけれども、農地は基本的には、一年草ですから、これは取れませんけれども、そこへですね、堆肥を入れて行くとか、そういう形で積極的に土壌に還元して行った場合だったら、2.5t CO2/ヘクタールくらいは行くんじゃないかな?というふうに言われていたんですね。
あと、実際に農作物、穀物となって生物、人間に食べられる分があるわけですけれども、まあちょっとそう言ったものも計算してみましょう、っていうことですね。
あと、藻場なんですね。
藻場がだいたい、1年間で生えて、死んじゃいますんで、死んだ後にまた分解してCO2に戻りますので、最終的に土壌とか生物、ウニに食べられたりだとかするわけですね、そういうふうになるわけですね。
その部分を見ていきますと、吸収能力はかなりあってもですね、最終的にはだいたい年間、まあ、4.5tくらいのところ位になるよね、という計算になります。
で、これ藻で計算して行くわけなんですけれども、壱岐の場合、もうちょっと大きな問題があります。というか壱岐だけじゃなくて、今、日本の南の方の海では大きな問題が起きておりまして、「磯焼け」という現象です。
海水の温度が上がっておりまして、時には30度を超えるときもあるわけです。
そうなりますと、海草は全滅するということで、
1989年から2013年の間にですね、実はこの壱岐の藻場だけでとってみますと、
もう3000ヘクタール(1989年)から、今、800ヘクタール、大きく減っているんです。
地球温暖化のために、炭素を吸収できる藻も多く減っていって、
しかもこの壱岐だけでなく、五島、対馬、いろいろなところで起きている。
こういう問題があるわけですね。
(すいません、これ、3.6倍って計算しているはずが、ここもう少し値大きくなって、
1万幾つになって計算できます。そうしないとここ3万8千になりませんからね。)
で、これでいきますと、だいたい足し算しますと、
藻場が新しい状態で、
お米までこれ、入れています。農地も全部、堆肥を入れるっていうふうに計算しています。
それでやると、だいたいですね、CO2吸収が、だいたい4万トンくらい、ですね。
あと、電気に変えるので計算しやすいように、計算しますと、だいたい21GWhです。
それで、じゃあ今、どのくらいのやるかっていうと、だいたい電力がですね、だいたい124Gwhで、燃料が37Gwhですね。
それで、こっちは全部再生可能エネルギーに変えられる、と、まず仮定します。
そうすると自然吸収が21Gwhですから、要するに、今使っているものの17Gwh分を電力転換しなければいけないよ、と。
今のここにある、例えば「運輸」が、殆ど化石燃料ですけれど、こういったものを電力転換させる。
「産業」もね、漁業ですからね、船なんですよね。
そういったものを電力転換して行って、電力分が141Gwhになって、それを再生可能エネルギーで賄わなければならないんですね。
「転換」の話ですけれども、
壱岐の産業をみると、「漁業」と、多いのは「建設業」、重機です。
あと「医療福祉関係」、これ給湯ですね。
この辺のものっていうのは、化石燃料から電力に転換するようなことをやる、
やらないと、今の吸収能力の枠内に入っていかない。
まずだから、「運輸」は全部、電気自動車ですね。それ以外ない。
どころが、そういう行動で、それで間に合うかっていうと、問題が起きるわけです。
今ここに書きましたけど、だいたいですね、これ動かして行きますと、141Gwhっていうのはですね、だいたい16MWの発電能力を、終日フル稼働が必要です。
だいたいこれ見ますとね、火力で見ましても、これですからね、だいたい、実はこれ、ワットアワーに書き換えたら、これの4倍くらいありますね。だいたい、だから50MWくらい。
じゃあ50MWを再生可能エネルギーで供給できるか?というと、一応できます。
今の風力の最大規模は50MWあります。太陽光の最大規模は141MWあります。
で、ここで皆さん、ホッとして安心するんですけれども、
問題はですね、ここで「ランプ変動」というのと、「周波数変動」っていうのがありまして、この「ランプ変動」というのは、
これ、壱岐の実際の場合です。
こうして行きますと、全体の9000kwくらいがベースの火力で行われていて、ここの部分が太陽光ですね、この部分が風力ですね、その部分で補われて行っているということです。
この部分を何らかの形で、どうやって補償するか、もしくは、その変動に入れるようなシステムを作るか、という選択になるわけです。
で、その場合ですね。
これ風力の場合もあります。
私、ちょっと、別の観点で後藤さん(後藤敏彦 サステナビリティ日本フォーラム 代表理事)
の竜宮計画を面白いなと思ったのは、
風力の変動が、全国規模でやった場合、抑えられるんじゃないかと期待したんですけれども、
これ見てみると、ドイツ全体でやった場合もこんな変動あるんですね。
まあ日本の場合、ちょっと、風の流れが違うから、もしかしたらもう少し平滑化できるかもしれませんけれど、なかなかやっぱり厳しい。
やっぱり、はっきり言って、太陽光と風力発電は、”変動的な再生可能エネルギー”、として
何かと合わせなきゃいけない。
何かの一つが、要するにやっぱり火力。「火力」を、要するに「バイオマス」にすればいいわけです、はっきり言うならば。
バイオマスにやってやることによって、先ほどの9000kwの部分をバイオマス発電にやるとしたら、じゃあどうなるかって絵を描くとするとですね、
これで50MW級のものだと、だいたい、60-70万 t / year の木材が要ります、これから使うとして、一応ですね、木材として計算して。時間もないので。
そうするとですね、だいたい200-300t/ha/year 相当の木材を切らなきゃいけない。
これ、どうなるかというと、要するに、”壱岐の森林を10年間で潰す”、っていうことになります。
要するにバイオマス発電でやるってことは、これはなかなか、絵にはならないのですね。
そうなってくると、次、出てくるのが何か、っていうと、
”じゃあ、溜めて使えばいいじゃないか”、と。
そうすると、こういうところに、「リチウム電池で電力」を溜めてやる。
そうすると、これ、周波数変動のほうも、リチウムイオン電池のほうで押さえられますので、かなり安定した電力になるので、
多分ですね、皆さん、リアルなモデルは、この、”リチウムイオン電池をかませる”、ということだと思うんですね。
そうしますと、だいたい50MW / hour の風力発電だとすると、140MW / hour のリチウムイオンバッテリーが要る、ということになります。
で、140MW / hour のリチウムイオンバッテリーって、いったいどうなのか、っていうと、まず、
それを作るのに、どれくらいのCO2が要るか?っていうことですね。
私は、別でリチウムイオンバッテリーのLCA(ライフサイクルアセスメント)をやっていて、
評価してみましたが、
これ、かなりばらつきがあるんですけれど、
最近、どうも、ヨーロッパの方々は低く見積もる傾向がある。
プロセスの中の情報が入らなくて、情報ゼロのままやって、そのプロセスの負担を小さくやるんで、
私はちゃんと、300kgCO2 / hourなんですけど、
ヨーロッパの人は100kgCO2 / hourで済ませちゃうんで、
まあ、100から300位の間に、一応しておきますよ。
そうしますと、140MW / hour に合うリチウムイオンバッテリーを製造するときに、だいたい、14,000t~42,000tのCO2は発生する。
これって何か、っていうと、壱岐のCO2の1割~3割なんですね。はっきり言って。
そこまでしなければ、ですね、
まず、いいですか? 風力、太陽光発電を導入する余地はあります。それは、面積的に見てもゆとりはあります。
ただ、その電力を安定して供給させるとした場合においては、
結局、まあ、今の壱岐の能力のリチウムイオンバッテリーだけです。
他の持ち込みは全然考えてないですね。
それをやって、やらなければならない。
で、これ、どのくらいのものかっていいますとですね、
要するに、自動車で言うならば、10,000台分です。
20,000人の人口のところに、自動車100,000台分のリチウムイオン電池、バッテリーを置かないと、今の燃料供給がうまくいかない、ということです。
まとめ、として言いますと、
・壱岐でも「CO2排出」は”使用時だけで”、「自然吸収の能力」の7倍あります。
・「輸送」と「家庭」のエネルギー消費を、『オール電化』してやらないといけない。
で、転換可能な産業部門、「漁業」と「建築・重機」関係のものなんかは、
自然吸収に頼るしかない。
・(その場合、100%電気自動車、あと、家電機器になるわけですけど、
この、生産のCO2は、日本や中国で作ってきます。)
壱岐の中では作ってないので、他に押し付けていますね。
これ、反則なんですけど、本当は。
・変動型再生可能エネルギーを、だから使いこなしていかなきゃいけない。
そうした場合、「能力」は、「技術的には」日本にあります。
ただ、バイオマス、地熱などの『安定型の再生可能エネルギー』を導入しないといけない。
地熱は時間がありません、はっきり言って。今の開発能力では。
バイオマスは、逆に森林を食いつぶします。
それで、蓄電池による、「変動安定」、「周波数安定」ということが、一つの可能性としてはある。
・ただ、大体、今のCO2の1割から3割分の誘発で、2万の人口の島に、もし車載リチウムイオンバッテリーだったら、「1万台分を置く」という形になるものです。
ですから、それがバランスが取れたことなのか?
ということで、
工業が無くて自然いっぱいの壱岐でも、現在の生活を維持して、
(今の話は、これ、”現在の生活を維持して”、という形で言っています)
カーボンニュートラルはなかなか難しい、と。
だから、私は、
「まず、”自分たちの生活を変える”、ってことを一緒にプランニングしないと、
今のままの状態では難しい」
と言っていて、
地方にその場合、工業都市を意識したんですけれど、
はっきり言って、「壱岐ぐらいだったら自然吸収の方である程度いくかな?」、と思ったんだけれど、「かなりこれは厳しいよね」、と。
それだけ、人間の営みっていうものは、自然に対してかなりの組み込みをやっているんだ、と実感した、
というところで話を終わりたいと思います。
はいどうも皆さん、ご意見よろしくお願いいたします。
※1 リター層(読み)リターソウ
デジタル大辞泉「リター層」の解説
リター‐そう【リター層】
リター(地面に落ちて堆積した葉や枝)が層をなしたもの。まだ土壌動物によってほとんど分解されていない有機物の層を指す。落葉落枝層。
https://kotobank.jp/word/%E3%83%AA%E3%82%BF%E3%83%BC%E5%B1%A4-1830997
〈コトバンク〉
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