2022.8.12 「核融合の開発は天使のほほえみか悪魔のささやきか」
中村崇氏 東北大学名誉教授
それでは、こういう題目で、少しだけお話をして、皆様のご意見をお聞きしたいと思います。
問題意識としてはですね、
若い頃ですね、「遠い将来は〈核融合〉というようなことができますよ」と、
「地上の太陽ができます」というような話で、
”またそんな絵空事”、と思いつつも、”そういうのがあるといいよね”、とは、この頃は素直にですね、まだ何も考えてない時期ですから、思っていました。
最近の疑問っていうのは、ここに書いていますように
「大型開発っていうのは、それがもたらしたものって一体何でしょうか?」と。
「宇宙」とか「原子力」もそうですね、その他にもたくさんあるんですけど、
「スパコン」もありますし、「環境」とは残念ながらあまりそういう話にはならないですね。
「カーボンニュートラル」は中途半端な大型というか、お金は結構今付いてるんですけど、あんまりちゃんとした形になってないんじゃないかと思っております。
まあ、この、今日はその「大型開発がわが国にとって有益か無駄か」という疑問ももちろんあるんですが、
それよりも素直にですね、”こういう方向性っていうのはどうなんだろう”、というのを、ぜひ皆様からご意見をお聞きしたい、という非常に素直な気持ちで、今日こういう話をさせていただいています。
それで、「なんで?」っていうことなんですけど、
もちろんご存知のようにITER(イーター)(*1)はフランスで今、試験炉が設置されていろいろ検討されています。
実はですね、全く私こういう分野と関係がない人間ですから、”ふ~ん”という感じで、横目で見ていましたね。
ITERの一部を日本に持ってくる、っていう運動をですね、東北地区はすごく頑張ってやったときがあったのですが、
結果的に、あれは日本では、やっぱり”金がかかりすぎる”ということで受け付けない、ということになって、
その代わり、効率のいい放射光が今できて、まだ運用まではしてないんじゃないかと思いますけどできているはずです。
で、それは置いといてですね、
実はですね、1年半か、もうちょっと前から、その開発のごく一部の手助けをしているということで、そういうことに対して少し考えを持つ機会が与えられた、というか、考えている、ということです。
それはどういうことをやっているかっていうと、「ベリリウム」(*2)なんですね。
ご存知のように、核融合はベリリウムっていうのが結構増殖の鍵ですから、これが要るんですね。
このベリリウムという金属が非常に特殊なんですよ。
銅ベリリウム(*3)っていうすごく性能の良い合金もあるんですが、はっきり言うとですね、むちゃくちゃ軍需産業用金属でございまして、
現在世界総生産量、これ、ほとんどアメリカが一手に引き受けているはずなんですけど、ほぼ300tぐらい。
ただ核融合炉を1基作ると500tはいるんだという話になっております。
なおかつ、この鉱石には、「ベリル鉱石」、はっきり言うと宝石なんですけど、
非常にロバスティック(*4)な反応しにくい鉱石で、これ、ここからべリリウムを取り出すのはですね、とんでもないCO2発生が必要というか、エネルギー投入が必要だということになっています。
ただ、私が手助けしている量研機構(量子科学技術研究機構〈QST〉)(*5)がですね、新しく開発しつつある方法は、非常に低CO2でベリリウムを作ることができるかもしれない、というようなもので、ここに対して、今アドバイザーみたいな立ち位置で動いています。
そういうこともあって、核融合について少し考えるということで
これが量研機構のところに出ているもので、”このようなものだよ”、っていう、ここは、下の方に書いてある文章、そのままコピペをしているんですけど、
まさにこれ、こういう言い方しちゃうんですよね。
もう”これ素晴らしいですよ”、と。何でもありでやれますよ、というようなことで、すごくいい事しか通常書きません。
で、これがですね、どっちなんだろうね、ということです。
”なるべく早く開発しましょう”、と、”どんどん進めましょう”と。
そうすると温暖化に対しても、はっきり言ってエネルギー供給をCO2に頼らないわけですから、「これは大丈夫ですよね」、っていうことを言うわけですけど、
こういう大型プロジェクトというのは、大型っていうだけではなくてですね、実は後で、
実は学説的にはこの後が本質なんですけど、
”非常に大きなエネルギーを発生する装置を本当に制御できるんでしょうか”、というようなこと、そういうことがあるというところでですね、私は懸念を抱いています。
やっぱり、よく言われるように、核融合、うまくプラズマを閉じ込めてる間はいいですけど、万が一、閉じ込め失敗したりしたら大変なことになりますし、
放射性元素は少ないとはいえ、やはりエネルギーが大きいというのはすごい大変なんですね。
この『反応装置の考え方』っていうのはですね、もしかしたらあまり、ここで発表したり聞いたりされている方は文系の方々も結構いらっしゃるんで、”こんなマニアックなの知らないよ”、とおっしゃるかもしれませんけど、
牧島象二先生(*6)という東大の化学、電気化学だったりですね、結構、当時としては最先端だったと私は思うんですけど、無機系なんですけど、化学の大先生です。
その先生が、ちょっと専門とは異なる分野だったんですけど、この「反応装置」、
化学工学の先生じゃないんですよね。
雑誌に、『反応装置の考え方』(*7)っていう、このような、論文ではないですね、総説(*8)みたいなものをお書きになられた。
ここでこういうことが書いてあるんです。
”反応装置っていうのは二つある。
[potential reactor]と[kinetic reactor](*9)があって、化学平衡の関係からですね、反応が一定限度までしか設定で進まない、っていうのは[potential reactor]だ。
これは、まあそこそこ頑張ってもリミットがかかるんで、比較的安全なんだよ”、と。
ところが、
”[kinetic reactor]っていうのは、いったん始まると止まらない、というか、要するに、
「正のフィードバックがかかる可能性もあって、無制限に進行する、というところで、
いわゆる ”暴走してしまう” かもしれない」、そういうものがあるんだよ、っていうのを十分に考えながらやりなさいよ。”
ということを提案というか、注意されてるわけです。
それで、これを私なりに勝手に書くとこうなっていまして、
はっきり言うとですね、[kinetic reactor]を安定して使おうとすると、”抜熱”なんですね。
つまり、”エネルギーをいかに上手に取ってあげるか”、という、そういうことが非常に重要で、
その抜熱技術が、というか、抜熱装置が壊れたから福島(原発事故)も起こったわけですし、
最近はもうほとんどの方が忘れていると思いますけれど、高速増殖炉で、あれは諦めざるを得なかった、と。液体ナトリウムを使うという難しさですね。
そういうようなことがあったわけです。
それがもう少し学術的に書かれたのがこれで、
この議論はですね、この本、というか、ペーパーを読んでいただければいいんですが、
[potential reactor]っていうのはですね、ここに書いてある、たしか10の5乗kcal per m3・hrという、こういうオーダーぐらいのエネルギー密度で、大体リミット。これは何を意味しているかっていうと、そこに「物質の流れ」と「熱の移動」がですね、ちゃんとバランスをとってそれ以上行かない、というところで、
日本でですね、日本でというか、いろいろ実用的なところで使われる「密度が非常に高い」と言われている、まあ、溶鉱炉ですね、鉄の溶鉱炉でも、大体一番激しいエネルギー密度が高いところで、それくらい。
他の化学反応炉はですね、大体そういうオーダーなんですね。
ところが、アーク装置(*10)ですね、これとか、
一番、実は小銃とかですね、あの大砲撃ってるやつですね。あとジェット、ロケットとかですね、一方的にドーンとやればいいっていうやつ。
これはですね、密度がいくら高くてもいいわけですよ。或いは制御する必要がある。制御しているんですけど、
その一方的に、そのエネルギーを利用することが中心ですから、一方的に、というか、継続的でない、単発で瞬間的であればいいわけですね。そういうものっていいわけで、非常に、
あんまりいい言葉ではないんですけど、「原爆」と「原子炉」の関係ですね。
「原爆」って、ドカーンと一発やったらもう大変なことが起こって、ものすごい被害が出る。
あれは被害を出すためにあるわけですけど、
「原子炉」はそのエネルギーをちゃんとコントロールして取り出すという装置なんですね。
それはもう発想としては非常に違っていて難しい、と。
核融合は、「放射性元素」という意味では若干、原子炉よりはマシなんですけど、
エネルギーとしてはもっと巨大ですから、本当にそんなことができるんですか、と。
そういう意味ではですね、核融合の開発っていうのは、
今ウクライナ問題があって、エネルギー危機がですね、単なるカーボンニュートラルではなくて、現実、やっぱりもう、相当、化石燃料に頼ってるんだっていうのが、しみじみとわかってるわけですね。
そういうような状態になってるんで、世界的にですね、
ヨーロッパでも、原子炉はもちろんですけど”核融合炉の促進を”、っていうか、”アクセル踏むべきだ”、という議論がどんどん出てきてる。
今、私はそこに対して、ちょっと個人的には、はっきりした、”こっちだな”という感覚は持ってはいないんですけれども、
若干、ベリリウムを作るということに関しては学術的な興味はありますから、ちょっと、”悪魔のささやきの方の片棒を担ぎ始めている”というところで、
実際にですねそういうことやってらっしゃる方とお話をするとですね、大変いい方で、個人的にはめちゃくちゃ好感を持てるいい方なんですよ。
そういうふうなことで、
”本当にこういう開発がいいのかどうか”、とかですね、
そういうことに関しては、かなりいろんな、今までの経験からだと、このコラムに参加されてる方々、非常に鋭くて、多方面からのご意見をお持ちですので、ちょっとお聞かせいただければな、と思って、こういうテーマで今日ちょっと、簡単にお話をいたしました。
私はエネルギー問題を解決するにはどっちかというと、「スマートグリッド」、本当、真の意味のエネルギースマートグリッドをきちっと作るべき、そちら派だったんですよ。
今でも、そっちの方がいいと思っているんですけど、さてどうでしょう、
ということで簡単にご紹介をさせていただきました。
ぜひいろいろなご意見をいただければと思います。
(*1)イーター(英語表記)ITER
https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC-167685
コトバンク
核融合実験炉ITER
https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/
量研ITER国内機関(ITER Japan)
(*2)ベリリウムhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0
Wikipedia〉
(*3)ベリリウム銅
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E9%8A%85
Wikipedia
(*4)ロバスティック
robust
強健な、たくましい、がっしりした、強い、強固な
https://ejje.weblio.jp/content/robust
weblio
(*5)量子科学技術研究開発機構 サイト
https://www.qst.go.jp/
(*6)牧島 象二
https://kotobank.jp/word/%E7%89%A7%E5%B3%B6%20%E8%B1%A1%E4%BA%8C-1654865
コトバンク
(*7)反応装置に対する一つの考え方
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680108370688#:~:text=%E6%A4%9C%E7%B4%A2-,%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E8%A3%85%E7%BD%AE%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E4%B8%80%E3%81%A4%E3%81%AE%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9,-DOI
Ci Nii Research
反応装置(英語表記)chemical reactor
https://kotobank.jp/word/%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E8%A3%85%E7%BD%AE-118560
コトバンク
(*8)論文の種類 ジャーナル、総説(レビュー)、速報(レター)の違い
https://netdekagaku.com/difference_journal/
ネットdeカガク サイト
(*9)〈参考〉
反応速度論(はんのうそくどろん、英語: chemical kinetics)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E9%80%9F%E5%BA%A6%E8%AB%96
〈Wikipedia〉
(*10)アーク装置
〈参考〉
Q2. アークとはどのようなものですか?
https://www.daihen.co.jp/products/welder/faq/basic/q2.html
株式会社ダイヘン
アーク溶接の種類と原理https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure/welding/arc/mechanism.jsp
キーエンス
コメント