1. よく見られるLCAの問題点
1-1 material manufacturingと品質の問題
具体的でプロセスを積み上げたLCAをみていると、これまでもすでにLCAの実施者が戸惑いなら問題を提起しているものが二つあった、それは material manufacturingの問題(例えばMajeau-Bettzら)と、ハイテク製品級素材の問題(たとえばDunnら)である。
実はこの二つの問題は実は密接に結びついている。material manufacturingは下図に示しすように下部の赤色で示した素材の調精部分に相当する部分が、ハイテク製品の組立製造プロセスの中で計上されているのか、それとも素材の提供プロセスの中で計上されているのかという問題として提起される。
Dunnらはそれを正直に示しつつ「素材をハイテク製品級にする工程が入っていない」として今後の課題としたように、実はどちらにも計上されていなかったのである。
近年注目されているハイテク製品(例えばエネルギー蓄積関係)は高度に精製された材料と高度に組み合わせられた製造技術のたまものであり、どこにでもある材料をアセンブルして出来値ものではない。その最も魂に属する部分がこれまでのLCAではほとんど取り扱われることなく進められ、大きなアンダーエスティメイトを行っていたといってよい。
そもそも、製錬のプロセスにおいて目的元素の抽出は極めて容易なプロセスであり、技術開発の歴史はその不純物との戦いであった。鉄鋼にシリコンとマンガンがごくわずか必ず含まれるのは、わざと入れているわけではなく、それを精製で除くことが今になってもできないから、妥協の産物としてシリコンやマンガンの残存する系での製品の標準化を進めてきたからである。また金は容易に還元しやすい物質であるが、混在物を取り除くために水銀アマルガム法や青化法などという環境負荷の高い方法で、わざわざ金属になっている金までも溶かして不純物を取り除く。これを金の還元エネルギーと炉の効率だけでエネルギー要求を議論すると、数ケタのけた外れの議論になってしまう。
教科書的には製錬は還元などの物質転換の工程であるが、実工程としては下図のような不純物管理の工程であり、操業条件や投入エネルギーもそれによってきまる。
さらに、実際のプロセスを設計するときには、下図のようなチェックが問われるが、素人はついつい赤の部分のみを考慮する。
しかし、実際にプロセス量を支配するのはピンクで書かれた混在物、廃棄物、混入物である。
ハイテク製品においてはこの不純物の管理がその成否を握っているといっても良いのだが、残念なからいままでそれを考慮したLCAはないといっても差し支えない。容器包装など汎用素材構成品を対象にして、その質をほとんど問わずに済んだ量の製品のLCAで、高付加価値の機能と質を持つハイテク製品のLCAが行われているのが現状でり、まだハイテク製品のLCAは本質を議論できるところにまで育ってはいない。
1-2 ハイテク製品のLCAでは許されない置き換え問題
量のLCA、汎用品のLCAではミスディレクションをおこす恐れがあるものとして、もう一つの問題を指摘しておく。それは、新規や不明な構成要素の置き換えや無視の問題である。
ここに示したのはよく見られるLCAのインベントリーツリーの例である。
まず黄色い部分が、たぶん使用量の少ないモノであろうが、「その他」としてまとめられ、結局環境負荷に関わる数字は与えられないで積算されていく。これば容器包装などであるならば、その無視による影響は小さいかもしれないが、ハイテク製品の場合は、量的に小さなものでも資源やエネルギーの集約度の高いものが多様にある。例えば自動車の中における電装品に使われる金や排ガス触媒の白金族は自動車の重量からすると「その他」に入れたくなるような量だが、環境インパクトは鉄の数千倍以上大きくLCAにおいてそれは無視できない。ハイテク製品においてはそのようなものが多数あり、その多くは「その他」の中に埋もれてしまう危険性がある。
次に、緑のアルミ箔をアルミで置き換える例だが、アルミ箔はもちろんアルミを原料としているが、ハイテク製品に使えるような高品位、更新精製の極薄膜にするために製錬の段階から別ルートで不純物管理がなされ、さらに何度もロールにかけられたエネルギー集約度の高いものである。これを汎用のサッシに使うアルミと一緒にしたのでは話にならない。ましてやピンクで書いたセラミックを単純に良く知っているセラミックであるアルミナで計算しようなどというのはもってのほかである(もっともLiBのセパレータにセラミックコートが使われているということを触れたLCAはほとんどなかったので、それでもましかもしれれないといったレベルだが)。
さして、先述のmaterial manufacturing,すなわち調精工程ともいうべき部分に関係するのが灰色で表したLi2CO3である。この図のLi2CO3は果たして同じ品質のものを言っているのか。実は必要品質に合わせるためにもう一行程必要なのではないか。検討を要する部分である。
このように、汎用製品型のLCAのインベントリーの手法をそのまま延長してLCAを行ったのでは、技術的に重要な部分が無視されて、LCAの解釈におおきなミスディレクションを起こしかねない。しかし、多様な新規物質や新規の構成要素を含むハイテク製品に対して、一つ一つの構成要素とその素材の品質のまで注意したLCAのインベントリーを行うのは、相当な労力と時間を要する。そこで、提案するのがこの後の章に述べるtwo step LCAである。
そこでは、第一ステップで粗い汎用素材型LCAを行い、そこから重要な構成要素を絞り出して、その部分に対して集中的に品質も考慮した精密なLCAを行うのである。
2. Two Step LCAの第一段階としての preliminary LCA
Two Step LCAとは、元日本LCA学会会長でもある原田が提唱する簡単でかつミスディレクションの少ないLCAの進め方である。その原型はすでに1996年のエコバランス国際会議でpreliminary LCAとして提起されている。
このTwo-step LCAは基本的にLCAを二回行う。一度目は粗いLCAであり、これは、LCAの対象とするシステムの全体像をつかむことで、それに引き続くより精度の高いLCAの際に重点的に解析せねばならせない重要項目の抽出を主たる目的とする。
それに引き続くsecond stepのLCAはその重点項目を中心に進める積み上げ型のLCAとなり、このsecond stepをもってLCAの最終結果とする。second stepを実施する際には、すでにpreliminary LCAで、ココマ構成プロセスの相対的重要度の概略がつかめているので、その需要部分に集中的にデータ収集や理論解析などのエネルギーを注ぐことができ、水や有機溶媒などのプロセス物質やプロセス投入エネルギーについても、精査することができる。そのようなsecond stepを精査LCA(scrutinized LCA)と呼ぶことができる。
第一段階のLCAはその数値の絶対値よりも、構成要素ごとの相対的に占める割合を見ることに意義がある。そのために、製品のすべての構成要素を対象とした包括性が問題になる。また、データベースにない、新規の物質でデータが取れないなどのデータの欠落を許さない網羅性が必要となる。さらに、それぞれのデータ処理は気泡的に同一の手法を用い、データベースの結合や積算方法の相違などを避ける均一性が求められる。
これらの要求に応えるのが産業連関表によるサプライチェーンの連鎖記述を生かしたトップダウン型の方法である。その方法は次節でより詳しく述べるが、品目の分割精度が悪いという弱点と、サプライチェーンが物質ベースではなく金額ベースでありあくまで近似的なサプライチェーンの継承でしかないという弱点を持つものの、包括性、網羅性、均一性を満たす第一次近似的な手法としては優れたたものである。
簡便性はあくまで第一ステップが近似的なものであることを考えると、そこに多大の人的エネルギーを割くわけにはいかない。特に遡及データを取るとなると、サプライチェーンにかかわる他社からもデータ取得が必要となり簡便性は大きく失われる。また既存のデータベースを活用すると包括性、網羅性に大きな問題が起こり、重要寄与項目の抽出には至らない。
問題は敏感性である、第一章のこれまでの検討例でも見たように、LiBのような先端製品の場合に、その先端性を特徴づける特殊な物質やプロセスが見落とされたり無視されたりして大きなアンダーエスティメイトとなり、LCAがミスディレクションをもたらしかねないケースも多い。two-step LCAはそれを避けるための方策であり、そのfirst stepは無視できない先端的なものを拾い上げる必要がある。
では、どのようにして無視や見落としが起きるかを見ておこう。基本的には前出の左図の 下部のプロジェクトセスを経ているものが、上部のように簡略化されて扱われることにより、この問題は起きている。これを製品構成のフローチャート上で見ると、同じく再度示す前出の図のようになっており、とくにこの場合は、灰色で示したLiCO3やアルミ箔 が図の右に出てきたものと左側のより下流工程で用いられているものとが、本来同一ではなく全図に示すようなプロセスを含んでいながら、同等のものとして扱われるところに問題があるのである。
では、もちろんsecond stepのLCAの対象としてプロセスを精緻に追っていけば明らかになるのだが、first stepの段階でのこの二つのLi2CO3やアルミ箔とアルミの違いは何か。それは性状や品質である。その違いをすべての構成物に対して同等の視点で定量的に扱えるものがあるのであろうか。
完全に正確に性状や品質の違いを定量化した共通の尺度とは言えないが、かなりの近似値を与えるのではないかと期待され、かつ製造プロセスにおいて確実かつ頻繁に使われている数値がある。それが価格である。例えばLiBを例に取ると、製錬工場出荷級のLi2CO3とLiB級のLi2CO3の価格は異なっている。価格がLiB級など特殊用途製品と汎用品との子となる要因には、以下のようなものがあげられる。
赤で表した部分が、プロセス―のエネルギーや物質要求にかかわる部分であり、環境ストレスにもつながるものである。一方で人手でこつこつと時間をかけたとか芸術的ひらめきなど、エネルギー、物質要求につながらないものもある。しかし、LiBのようなハイテク製品は、ほとんどが図の当た時に相当し、価格はエネルギー、物質投入 ひいては環境負荷をある程度反映した重みづけパラメータとして使うことができると期待される。なお、もちろんこれは最終段階ではなく第一段階の粗LCAに対してである。
では実際に価格と品位、エネルギー投入の関係を実例で見てみよう。
図は、純度の異なるシリコンとその製造に要するエネルギー、そして価格をプロットしたものである。2N(99%級)は冶金級と呼ばれるもので6N(99.9999%)は太陽電池級そして11N(99.999999999%)は半導体級である。当然純度が高くなるほどその製造エネルギーも大きくなっているが、さらにシリコン価格が製造エネルギーとほぼ並行して上がっていることが注目される。
他の例として、化学薬品を取ってみる。横軸に価格をとり、縦軸に重量当たりのCO2原単位を取って両対数で表してある。ここでも価格とCO2原単位は非常に良い相関関係を持っている。
さらに金属地金の価格とCO2原単位を比較したのが次の図である。この場合これまでの二つと比べて分散は大きくなるものの、地金価格とCO2原単位はよい相関を持っているといってよい。
このことからして、同一物質の品質や性状による環境負荷の違いを推定するのに、その価格の違いで粗い近似推定値を得ることは妥当であると判断される。
2-2 two step LCAの first stepの手順
これらをふまえた two step LCAのfirst stepの手順は 次の表を埋めることになる。
- 構成要素のリストアップ
製品を構成している要素と、製品製造工程で投入されている要素、すなわち構成物としての投入材とプロセス投入材をリストアップする。その際に表のCで何らかのI/Oコードと合致させることができるところまで要素を分割しておく必要がある。また、微量しか使われていない要素でも重要な構成要素の場合や、その組み立てに供給されるサプライチェーンで集約的なエネルギー投入が行われている場合があるので、リストアップの対象は使用されている量よりは、購入金額で判断すべきであり、少なくとも購入金額が全体の1%を超えるものはすべて列挙すべきである。 - 量と価格レベルの入力
リストアップしたものに対して、その量(m)と価格レベル(p)を与える。価格レベルは大体の数字でもよく1,2,5,10,20,500….の精度でもよい。また製造工程でのエネルギーは、第一段階の粗LCAでは工場全体の消費エネルギを製品1個に割り付けたものでよい。また設備に関しては、減価償却分の金額を入れることで、第一段階の粗LCAとしては十分である。
3. 細目I/Oコードの割り付け
つぎにこれらの項目にI/O(産業連関表)の約3500の細目コード(c)を割つける。ここでは例外なくすべてにコードが割り付けられねばならない。そのために複数の部材が用いられているものは、その要素にまで分解してリストアップされていなければならない。
4. 細目コードに対する環境負荷原単位と平均価格の入力
先に割り付けたコードに基づいて、3500細目の環境負荷原単位(b)と、その細目に相当する平均価格(n)を入力する。
5.汎用品ベースの計算
これらにより z=b × mが汎用品ベースの環境負荷とてえられる。
6. ハイテク製品級の環境負荷原単位の推定
このzに対して 価格pを用いた補正を行う。すなわちLiB級品の環境負荷の推定値Zは
Z = z × p / n
して得られる。
7. 第二ステップへ
このZの占める割合の大きなものから、優先度をつけて 積み上げ法によるより精密な scrutinized LCAを実施する。