5/26(火) 醍醐市郎 「量でモノ売る社会からの転換は可能か 材料研究者の視点から」のコラムとチャット

醍醐氏コラム

ご紹介ありがとうございます。

本日はこの機会いただきましてありがとうございます。今日お話しさせていただく、このタイトルはですね、実は私が考えたというよりは、こんなこと喋ってみたらどうか、というのを原田さんの方からご提案いただいて、で、何喋ろうかな、といろいろ考えてたんですけど、なんか考えても原田さんのご提案よりいいタイトルが浮かばなかったので、ま、チャレンジングなタイトルであろうかとは思うんですが、まあ、考えてきたことではあるので、このタイトルで10分ほどの話題提供ということでしたので、お話しさせていただければと思います。

サブタイトル的に、材料研究者の視点から、というのが付いてございますけれども、私自身はたしかにマテリアル工学専攻という、材料の場所にはいますけれども、新材料の開発とかはしていなくてですね、材料をどう作ってどう使えばより持続可能な社会に貢献できるのかというところを研究のトピックとして研究をしております。

 

まず最初にですね、今日お話ししていく中のベースになるコンセプトは、このMeadows(メドウズ)さんがご提示のこのピラミッドをベースにお話を進めていきたいと思ってますが、この右側のこの三角形、これが、ボトムの部分が「手段」、で、トップの部分が「目的」という、そういう図になっていまして、

一番下に

「ultimate means−究極的な手段」

「intermediate(インターミディエット)なmeans、

「intermediateなends」、

それから、

「ultimateなends」、

という、こういう4段階で記されています。

で、この一番下が「自然資本」だと。

で、自然資本を材料科学技術じゃないかもしれませんけれども、科学技術でもって、人工資本に変換すると、その人工資本というのはintermediate meansになる。

で、そのintermediate meansをポリティカルエコノミーを通すとintermediate endsになっていく。そこにはwealthなんていうのが書いてあるわけですね。

この辺にいろいろ書いてますけれども、少し細かいところは。

で、更に、それをtheology and ethicsを通して、最終的にはwell-beingというultimate endsに繋がっていく、と。

まあ、こういうような四階層で整理がされてるものになります。

で、まあ、我々としては持続可能な開発を目指すためには、このいかに自然資本とwell-beingをデイカップリンするか、というところが重要だ、というのが、我々の目指すところになってくるわけです。

で、まあ、私自身が研究してきた成果なんかも少し紹介させていただきますと、この材料が人工資本としての材料が、我々が使っている量というのは、経済発展と共にサチュレートしていくんだ、ということを示してきています。

まあ、これは日本の鉄鋼材に蓄積量、使用中の蓄積量、赤いラインは「使用中の蓄積量」ですね。

残置されているうなものも上に乗っかってますから、これを見てしまえば、増え続けている、ということになりますが、「使用中の蓄積量」だけを見れば、まあ、飽和な傾向がある。

これは鉄鋼材に限らず、銅素材に関しても同じようなものです。

で、それは、日本に限らずですね、先進各国、横軸に「GDPキャピタル」を取って、縦軸に、これは「一人当たりの鉄鋼材ストック量」は取ってますけど、こうやって各国並べてみますと、大体8トンから12トンくらいでサチュレーションの傾向があるんではないか、というのがわかってきているわけです。

 

ただ、じゃあここで比較してたものって何だろう?って思うとですね、この横軸のGDP per capital、まあ、これはさっきの階層でいくと、このwealthの階層になるんだろうと思うんですね。intermediate endsですね。

で、それに対して、鉄鋼材の一人当たりのストック量、これは人工資本。

ただ、人工資本だけども、ton per capital と言ってますので、あくまで物質としての量だけを測ってるわけですよね。

そうすると、今まで四階層で整理されてきたけれども、実際に、じゃあ人工資本がwealthにつながるところ、っていうのは、きっと人工資本が提供してた「機能」なんじゃないかと思うわけですね。

そういう意味では、人工資本の質量で測っている、っていうのは、あくまで自然資本を物質量としてどれだけ人工資本に換えましたか、というところを評価しているに過ぎなくて、同じ、この階層でも、上側のエッジと、下側のエッジでたぶん違う測り方があって、きっと質量っていうのは下側のエッジでしか測ってないんじゃないか、と、まあ、そういうふうにも見えてくるわけです。

まあ、あとはresource efficiencyは、これは、まあ、資源資本からどれだけ人工資本に物質を取ってきたか、っていうのと、GDPというのが分子になってますから、まあ、GDPもきっとこのwealthの階層ですね。

まあ、そういう意味では本当に測るのが難しいとは思いますけれども、理想的には、持続可能性の議論においては、本当はwell-beingの量、というのが、分子に来るべきであろうということになって、その代理指標としてのGDPということではないか、とは思いますが、もし、ここにもう少しいい指標があれば、それが分子に来た方が望ましい、と。

ただ、そこはちょっと私の専門でもないので、そこはそこで考えてる人はいるんだとは思います。

なので、今日はどっちかというと、この下側の議論をしたいわけですけれども、人工資本としての物質ストックの機能ですね、この物質ストックが人工資本が、この上側のends側に提供してる、その「機能」っていうのはですね、まあ、これがインターミディエットmeansなので、手段だと言っているわけですけれど、手段としての機能、っていうのを定量できないものだろうか?と。

今までは、ずっとどうしても、質量で測ってきたわけですよね。

ここの「機能」が定量できれば、今日のこのタイトルにもあるように、量り売りじゃない世界としての「機能での評価」っていうのが可能になるんじゃないか、と、そういうことが考えられるわけです。

今までどんなふうな、その、機能に対する議論があったか、っていうのを少しだけ紹介しますと、例えば、サービス工学の世界では、全てのものは潜在的に機能を有するんだ、と。

で、人工物っていうのは、製作者の意図を持った機能、というのは必ず含まれている。

で、機能は状態変化をもたらすものだ、と、まあ、そういうふうに定義されてますので、使用中のwell-beingで、何らかの、使用中にwell-beingに対して状態変化をもたらす量がきっと「機能」だ、っていうふうに考えている、っていうのが、このサービス工学の「機能の定義」だというふうに考えます。

それから、バリューエンジニアリング、というところでは、機能っていうのは手段、目的を有するもので、製品の機能構造、というのもある、と。例えば、これは、ステープラーになるんだと思いますけど、ステープラーというのは、「針を刺す」、というのと、「針を曲げる」という手段が合わさって紙を束ねることができる、と。

それはもうちょっとブレークダウンしていったらこういうふうに記述することができる、っていうのが、この「価値工学」における「機能」の考え方です。

それからもう一つ、GISでもですね、工学的機能というものが定義をされておって、そこには、機能っていうのは、工学的機能っていうのは「設計に反映できる定量的なもの」だと。設計士に求められる物理現象を要求に対して定式化できること、っていうふうになっているわけですよね。

そういう意味では、機能っていうのは、逆にこの、製品からするところの機能の要求、まあ、使用段階ですかね、の機能の要求。

それから逆に、この製品が提供する機能の提供、と、まあ、この両面からこの現象が見えること、っていうのが、まあ、この工学的機能、それからこれは、定量できること、っていうのが工学的機能、っていう定義になっている、という、まあ、そういうことになります。

で、さて、「材料」っていうところに話をもう少し戻してくると、まあ、物質があって、で、材料を作るとき、っていうのが、まあ、この「天然資源」世の中にある物質を意図を有する機能に変換する最新のプロセスだ、というふうに認識することができようか、と考えてます。そういう意味では、材料こそ、「機能」で評価すべき対象なんじゃないか、っていうのが、まあ、言いたいところでして、ただ、じゃあそれをどうするのか、っていうのは、まあ、これから研究を進めていかなければならないところではありますが、まずは、その、じゃあ「機能」っていうけれども様々な機能がありますね。

強度があったり、伸びがあったり、メカニカルプロパティだけじゃなくて、電気的なプロパティも有れば、磁気的なプロパティもありますし、じゃあ、その機能の尺度っていうのをどういうふうに設定すべきなのか、あるいは、一つの材料にとって複数の材料機能が要求される、ということは一般的なことですので、じゃあ、複数の材料機能をどうやってやったら集約して評価できるのか、なんてことを考えていかなきゃならん、というのが課題ではないかと思います。

すいません、ちょっと時間超過してるかもしれませんが、簡単にあとスライド二枚だけですけれども。

一応、我々のところでも研究として、そういう方向で進めてきたのがあるので、簡単にだけ紹介ですが、これはAshby先生の考える「機械設計における材料選択の選択指標」というのは、あるファンクションに基づいて表現できるでしょう、と。

そのファンクションの中のパラメータとしては、「設計要求」「材料寸法」「材料特性」というこの三つが考えられる、と。

で、そういう意味では、材料特性が高機能化することによって材料寸法が小さくなるならば、それで資源消費量が減るわけですね。

あるいは、材料特性が、まあ、よく高機能化、高機能化、って言いますけれども、材料特性が上がるのか、下がるのか、その物性値自体がですね。どっちが高機能化か、っていうののは、その設計にとって望ましい方向に変化するのが高機能化だと。それも定義しておかなければならないわけですよね。

で、そういった定義をし、この材料特性を特定し、で、まあ、その間の研究の方法は全部割愛してしまいますけども、鉄鋼材がもし1964年の普通鋼しか技術として得られないとするならば、それに対して、2013年には、2013年に必要とされている、使われてる鉄鋼材の量っていうのは、それよりも高機能化してるわけですから、もしその50年間の技術開発が無かったとすれば、もう11.3%の質量が必要だったに違いない、と、材料量が必要だったに違いない。

なので、その材料の機能向上によって、11.3%の質量減に繋がっただろう、という、まあ、そういう結果です。

あるいは、これはその時にマーケットに出ていたものが、64年の材と比べてどれくらい高機能化していたか、というのを31%増(アルミニウム)14%増(普通鋼)13%増(銅?)まあ、そういう形で評価をしてみた、っていう、そんな結果ですね。

まあ、ですから、こういった材料を機能で評価できる、という可能性はですね、もう少し追求していきたいな、というふうに考えておる、というのが今日の話題提供でして、ぜひここの皆様方とそういう点について議論できたらな、と思って話題提供させていただきました。

どうもご清聴ありがとうございます。

チャット

a) 設計の考え方次第で、高機能化の方向性が変わるのではないでしょうか。
b) 材料機能が上がる事で、物質(製品)の要求が増えて、製造量が増える場合、材料使用量が削減できるという結論でよろしいのでしょうか
c)  時間軸(耐久性、長期使用、転用・再利用)も必要?
d) 材料使用量を減らすことが設計メインであれば、リサイクル材を使用する試みが進んで行くのでは。
e) 材料の有する複数の特性(熱伝導率、ヤング率など目的に応じて)を重みづけして加算したものを材料の機能価値として定義する方法を、以前提案したことがありますが、各特性が向上した際に、価値向上も線形として評価してよいか、で悩み、放ってあります。いずれお考えを伺えれば幸いです。
f) 経済性(材料コスト、輸送コスト、リサイクルコスト、廃棄コスト)と環境負荷等、次元の異なる評価軸をまたぐ確固不動な評価軸が定まってない気がします。
たとえば、牛乳の梱包材料として、牛乳瓶と紙パックとどちらが材料特性が優れていると判断できるのでしょうか?
g)大量使用されている鉄鋼とその他の素材での違いがありそうな気がします。
h) 別の素材により代替されるケースもありますよね。
i) 醍醐先生ありがとうございました。
j) 取り組みの方向性はとても興味深いものでした。どうもありがとうございました。
k) 炭素繊維ができて、飛行機の翼の材料が変更になったり 材料機能を考えるというのは、新たな気づきでした。 話題提供ありがとうございました。
l)プラスチックに同様の分析をしたらどうなるのかなと思いました。有難うございました。
m)建物設計の視点から見て、H鋼はかなり合理的です。(建築構造設計が専門の者です)。が、使用箇所や構造方法によってもっと違う形状が適する場合もあります。生産量が経済的に合えば、そちらを使うことも出来ますが、現状ではH鋼の生産コストが低いので。
n) ありがとうございます。事実として電炉が上向きの開発をあまりしていないと感じます。
o) 有限要素法を用いた設計では、パーツごとに、弾性率を設定できるので、構造材の変形を絞り込んだ上での、設計など、積極的に進めて良い様に思います
p) 鉄鋼材料の機能(機械的特性は勿論、耐食性や溶接性などなど)によりとても多岐にわたりそれにより合金成分、組織制御等様々に作り分けしているわけで、統一的基準を作るのはかなりチャレンジングなことと思います。こちらもまた勉強させていただきます。
q) 個々の部材の形状設計すること
r) 材料の高機能化、モーターなどの複雑な組み合わせによりリサイクルが困難になって老廃物が増加すると、高機能化による材料の削減の効果が相殺される。
s)  市場では材料の機能を上げるために設計や工法の工夫をしている実態があると思います。 しかしながら通常市場ではコスト要因や調達の選択肢を広げるために積極的に採用されないような傾向があると思いますが、そのような分析結果はでておりませんか。
t) 例えばH鋼であれば、変形する方向が一方向に絞れれば、T字鋼として、圧縮側にセメンタイトが多い脆性体をつかうなど、、、可能性が膨らむ設計が出来れば面白いと思います
u)構造材料のリサイクル用途での回収は、量が集荷しやすいと考えます。一方、非鉄金属材料の有価物は、回収の仕組みが十分とは言えず、その中から、有価物を回収する程度が制限しているように感じています。
v)パーツごとの形状、さらには弾性率や耐食性や溶接性も含めた設計ができ、それに合わせた製品が市場に乗るシステムまで考えることは楽しそうです。 楽しい、でいいのかな?
w) 老廃スクラップ以前に、品質の側面でも扱い易い工場発生スクラップですらトレーサビリティが難しくクローズドで活用するケースは稀ななか、デジタル技術によって進みそうですが、リサイクラーとしては機会ともリスクとも感じています。
x) 資源の量が飽和することがデータでも裏付けられていることが分かりました。ありがとうございます。
y)すみません。銅については、お話の通りです。銅以外の貴金属・レアアース・れまメタルに関しての話でした。
z) 先ほどのご回答についてですが、例えば強度を考えた際に、比強度として考えれば線形化できる、ということでしょうか?Ashbyの考え方に近いと思います。その場合、そもそもが”比特性”と言える特性(例えば線膨張率)の向上をどう扱えばよいでしょうか?
aa) なるほど。有難うございました。考えてみます。
ab) 別件が有りますので失礼致します。醍醐先生、皆様、有難うございました。
01:16:58 CN 三島 邦子: 金属のトレーサビリティは難しい事は分かりました。ただ陳腐化の少ない材料だからこそ、確実にリサイクルが促進される方法を期待するのではないでしょうか。別の会議があるおで、これで失礼します。ありがとうございました。
ac) EUでは、建築物におけるCEへの移行においては、建材(製品・素材)のトレーサビリティのデータ化(マテリアルパスポート)することで、できるだけインナーループから循環させていくことを目指しているようです。いずれにしろ、バージン原料の投入量を減らすという評価への対応のために、金融機関が中古ビルにどんどん投資しているようです。大変勉強になりました!ありがとうございました。
ad) エンドオブライフでは、例えば、トイレットメーパーやティッシュペーパーにおいても、同様の課題があるかと思います。水や土地利用を考えると、一定以上の使用は、持続可能とは言いにくいと思います
ae) とても有意義なお話しをありがとうございました。 すべて理解出来ませんでしたがいろいろな視点があって大変勉強になりました。 資源効率指標の考え方にも重要なポイントだと思いました。
af)皆様、ありがとうございました。醍醐先生、ご回答ありがとうございます。またの機会を楽しみにしております。

 

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